夜明け

新しい日が明ける。
突き刺すような清廉で冷たい空気の中。
片倉小十郎はある人物を待っていた。

本当に来るかは分からない。
相手も自分も立場というものがある。
ましてや自分とはおおっぴらに会える関係ではない。

それでも、どこかで確信していた。

 

 

彼が来る事を。

 

 

物思いに耽るうちに、辺りが白みはじめるのに気付いた。

 

夜明けが近い。

 

「今回は外したか…。」

己の勘には自信があったんだか、と明け始める空に背を向けようとする。

 

瞬間、別の馬のいななきが聞こえた。

聞いたことがある。

 

あいつが、父から配されたと嬉しげに話していた。

 

残月、と…。

 

 

「遅くなりもうした、片倉殿。」

目に映ったのは朝日に映える紅。



「いや…。」

年甲斐もなく嬉しくて、口の端があがる。顔も紅潮してるかもしれない。
幸い逆光で相手に自分の顔は見えてはいないだろうが。

 

「間に合ったな。」

照れ隠しに馬上から相手の腕をつかむ。

 

「え…片倉ど…。」

そのまま体ごと引き寄せると、軽々と抱き上げて自分の馬の上…正しくは膝の上にどさり、乗せた。

 

 

「か、か、片倉殿?!」

 

慌てる相手を両腕で包むように抱きしめる。

 

「片倉ど…。」

「景綱だ。」

「え…。」

 

「今くらい、呼べ。」

「………っ!」

そう言うと、文字通り手に取るように強張るのが分かった。
多分真っ赤になっているだろう。
からかったつもりはないがこういうことに弱い相手だ。

怒るか?と半分は楽しみに相手の反応を待つ。

 

「……な、殿…。」

「……。」

小さく、だがしっかりと片倉小十郎景綱の耳に届く、声。

 

 

驚くほどに心を揺さぶってその心のままに

抱きしめる腕に力を込めた。

 

「い…痛いでござる!」

「うるせえ。お前が悪い。」

あんまり俺を喜ばせるな。放せなくなる。
口に出そうな言葉をかろうじておしこめた。

言えば本当に手放せなくなりそうで。

 

「あ…。」

「ん?」

「日が、上ります。」

 

「ああ…。」
香しい温もりと 美しい日が身体を暖めた。

 

二人は言葉もなく新たにのぼる日を眺めた。

 

新たな年が二人を繋ぐか裂くか、それは分からずとも。

この日を忘れまい。

 

二人は想いひとつ、重ねた。

 

END


 ミホ様に送らせていただきました、年賀小説です。初こじゅゆき。
書いてるうちにやたら甘くなり、自分でも戸惑ったシロモノです。
楽しかったですがvv

不躾なおしつけ、失礼いたしました;;
今年もどうぞよろしく!
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