音叉
「おーいモズ、なんかお客さんやで〜。」
「あっ○岡さん。わざわざすんません。」
「かまへんから早よいって来い。」
阪神タイガースの練習場にて、その日鵙来は客の来訪を聞いた。
先輩にせかされながら客のいるという場所に行くとそこにいたのは。
「お前…猿野やん?」
「ども、鵙来さん。」
鵙来の高校時代最後の対戦チームの一人。
猿野天国だった。
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「へー…せやったんか。」
「ええ…鵙来さんだったら何か聞いてねえかなって思って…。」
「ヨミと監督の居場所か。」
天国の用件を聞いた鵙来は驚いた。
まさか個人的に気に入っていた彼があの黄泉の…チームメイトの弟だったとは。
あの最初の県対抗選抜の時、見たことも無いほど黄泉が執着していた相手。
そして…執着されていたようにも見えた相手。
どんな関係か、鵙来は何度となく彼に問い詰めていたものだった。
だが…黄泉は引退し、すぐに豊臣高校を退学した。
父である雉子村監督もすぐに監督職を辞任して。
それ以来、二人は鵙来の知る限りでは連絡もない。
「悪いんやけどな〜オレもよう知らんねん。
親子そろって夏が終わった後引っ越したらしくて…。」
「そ…ですか。」
天国は鵙来の答えに、少し気を落とす表情を見せた。
その表情に、鵙来は小さな心の痛みとともに、少なからぬ興味を覚えた。
「…にしても、心境変わったんやな。
去年の夏はえらい剣幕やったやんか。」
「……はは、そうっしたね。」
鵙来のストレートな質問に天国は苦笑する。
そういえば去年、初めて会った時には黄泉と同じ学校だというだけで彼を毛嫌いしていたものだ。
だけど、今は。
「心境っていうか…いろいろと、ね。
事情ありまして。」
その表情に、鵙来は天国の…隠されていた苦悩をどこか垣間見たように思った。
そしてどこかでその表情を見たことがあるような気がした。
(……そういうことやったんやな。)
鵙来は、ごく自然に。
天国の髪を撫でた。
「鵙来さん?」
慈しむように。
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『なあ、ヨミは兄弟とかおらんのか?』
『…ナンダイキナリ。』
『いや、な〜んとなくやねんけど、お前って身勝手気まま大爆走なオレ様キャラのわりに
なんかちょいちょい世話焼きな長男気質が見えるっちゅうか…。』
『……。』
『なんか下に兄弟おりそうやな〜とか思ったもんやから…。
って、ヨミ?』
『…イイ度胸ダ。』
『わっ?!ちょいやめ!!お前の球当たったら死ぬ!』
『ソレハ丁度イイ。死ネ。』
『んぎゃ〜〜〜!』
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「鵙来さん?」
「…なんやな、よう似てるわ。」
「え?」
「…せやな、ええこと教えたるわ。
ヨミがアメリカで世話になってたっちゅうコーチの話を前聞いたんやけど…。」
「えっ?!ホントっすか?!」
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「あーあ。ほんっまそっくりやなあ。」
天国が鵙来から情報を受け取り、早々に帰ると。
鵙来は人知れずため息をついた。
「意地張って見栄はってふんばって結局お互いしか見えてへんねんから…。」
おんなじように頑張って。
おんなじように辛そうで。
けど全く違う場所にいて。
けどおんなじように忘れられなくて。
今でもおんなじ音を出してる。
「繋がってるの血ぃだけちゃうんかなあ…。」
鵙来はもうひとつ息をついて。
「俺やってほんまは一目ぼれしてたんやけどなあ。」
小さく小さく、自分の音を出した。
end
今回もリハビリです…黄泉猿←鵙みたいな雰囲気で。
ちなみに音叉は特定の高さの音を出すU字型の金属ですね。
お題にも添えてないようですみません。
わけの分からない文で更にすみません。(苦笑)