RING





その日。
夜の散歩に出ていた花嫁たちは大きな荷物と共に帰ってきた。
随分と嬉しそうな顔をしている。

何かいいものでも見つけたようだ。


「ご主人様、見てください。
 この宝石。人間が隠していたもののようですわ。
 
 ああ、私これで素敵なブレスレットが作りたいわ。」

アリーラが息せき切って見せにきたのは、彼女たちの身体がすっぽりと入りそうなほどの大きさの宝箱だった。
中には、宝石が詰められている。
どうやらアリーラ自身が言っているとおり、人間が見つけて人知れず隠していたものらしい。

花嫁たちは、こればかりは人間だったときと変わらないのか、
宝石を嬉しそうに手に取っていた。

かくいう伯爵も、宝石の輝きは嫌いではない。
自分も何か身に着けようかと、少し興味を持って箱を見た。


「ご主人様はいかようなものがお好みですか?」
ヴェローナは伯爵がよってきたのを見て、主人の好むものをお渡ししようと話しかけた。


「そうだな…このプラチナなどよいだろう。
 ピアスにつけさせてもらうとしよう。」
シンプルかつとことん高級なものを選ぶ所はさすがといえよう。(何が)

「お前たちも好きなものを選ぶがいい。
 ドヴェルグに加工させよう。」

「まあ、嬉しい!」
マリーシュカも嬉しそうに微笑んだ。

その時、ふとマリーシュカの目に小さな黒い輝きが止まった。
美しく貴重な黒真珠がひとつ、箱の隅で輝いていたのだ。

「ご主人様。この黒真珠など指輪にされてはいかがですか?
 ご主人様のお手にふさわしいと思いますわ?」

マリーシュカは無邪気に黒真珠を差し出す。


だが。


「…マリーシュカ。気持ちは嬉しいがね。
 
 私は指輪はつけないことにしているのだよ。」
伯爵は少し笑って、一番年若い花嫁の手を拒んだ。


「まあ?そうでしたの?
 …どうして…?」

マリーシュカは感じたままに疑問を口にした。


「……マリーシュカ。おやめ。」

アリーラは静かにたしなめる。

「ご主人さまもきっとお話したくないことなのよ。
 ……そういうお顔をされているわ。
 ねえ、ヴェローナ?」

「え?ええ…そうなのかしら?」

ヴェローナはあまり分かっていないようだったが、アリーラは一番主人との付き合いが長い。
アリーラの言う事であれば、間違いではないのだろう。
そう思い、ヴェローナはマリーシュカに似合いそうなサファイアを渡して気持ちをそちらに向けさせた。


「…すまないな、アリーラ。」

「……いいえ。ご主人様。」


伯爵はアリーラに一言断ると、自室に戻って行った。





##############


伯爵は部屋に戻ると、一人左手を見つめた。

薬指の無い左手。

かつてたったひとつの指輪をつけていた指だった。

今は無くしてしまった…。

いや、渡したのだ。

彼をつなぎとめるために。



「この指に戻るとき・・・お前も戻ってくる。」


この手に、この腕に。

竜の指輪を同じ指につけて。


決意を確かめるように、伯爵は手を握った。


「必ず…取り戻す。」


その日まで…。



                             END


すいません映画無視してノベライズ参考に左手薬指にしちゃいました。
だってそのほうが意味が深くなりますし…(萌)
映画だとおもいっきし右手なんですけどね……。
このネタは榎雫セガキちゃんと梅田うろうろしてたとき、アクセサリー見て
「このピアスとか絶対伯爵してそう」
「でも指輪はしないやんな〜〜VV」というわけで自然と出てきました。

結局伯爵は他のアクセサリーはしても指輪はしないこと決定です。(勝手)

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