再会の その次




 その日、天国は母親に大量の買い物を言い渡されていた。
 大量の買い物を頼まれたことは面倒ではあったが、とくに構わない。
 しかし。

 「これはいくらなんでも多いだろ…。」

 いくら力自慢の天国でもビニール袋6つにダンボール1つは一人で持っていける量ではなかった。
 問題は重量ではなく、体積だ。
 自分の両腕には余る分量だった。


 そんなこんなでスーパーの前で立ち往生していると。
 
 「……。」  
 「え?」

 すぐ傍に人の気配。
 顔を上げると、色素の薄い、少し長い髪の男が立っていた。
 切れ長で黒目がちなの瞳で間違いなく美形に属した顔立ち。
 服装は白いTシャツにGパンというなんともシンプルなスタイルだった。
 
 「何?誰っすか、あんた。」

 「……。」

 その男は黙ったまま荷物を見て、手を差し出した。
 「え?何?」

 天国は困惑する。
 すると彼はだまったまま自分を指し、手振りで「手伝う」と言った。
 
 「え?もしかして手伝ってくれる、とか?」


 こくり。


 「マジ?!サンキュー!
  いいやつだなあんた!」
 天国は満面の笑みで礼を言った。

 「……。」
 するとその男は照れたように微笑んだ。




 ########

 武軍装線高校野球部員、神鷹が猿野天国を見かけたのは散歩の最中だった。
 久しぶりの休日でいつもの緊張感も少し休め。
 一人でぶらぶらと歩く事を楽しんでいた。

 すると、前方に見慣れない、しかし記憶には非常に鮮やかに残っていた姿が目に映った。
 
 猿野天国。
 
 夏の大会一試合目で闘い、そして自軍を破った十二支高校の選手だった。
 そしてあまりにも鮮やかに神鷹の脳裏にその姿を写していった存在だった。

 
 神鷹は密かに彼との再会を望んでいた。

 まさかこんなにも早くその願いがかなうなんて思っていなかった。


 しかも相手はどうやら多すぎる荷物に困っているらしい。

 またとない機会である。

 (攻撃の機会)


 そう思い、天国の前に姿を現したのだ。


 (わからないだろうけど)

 今は学校でのように顔を半分隠したりしていないので。
 天国に自分のことは分からないだろうと思った。

 そして、分かっても。



 (アイツにとって、武軍は…。)


 武軍装線は、天国にとって汚い手のみで勝とうとした憎むべき相手でしかないと思うから。


 会えるだけでいい。
 そう思って天国の前に姿を現した。


 そして手振りで手伝う意思を伝えると、天国はとても嬉しそうに笑ってくれた。
 自分に向かって「良いヤツだな」と。



 (…嬉しい。)

 神鷹はほんのりと心にわく幸福感を味わった。



 #####
 
 そして、しばらくして天国の家に到着した。

 「あ、ここ俺んちだ。
  あんた、マジサンキュな!」

 「……。」
 神鷹はふるふると首を振り、気にしなくていいと伝えていた。

 
 そして、その場を去ろうとすると。



 「待てよ、茶くらい出すぜ?
  武軍のスナフキンさん!」


 「?!」



 (知っていたのか?!)

 神鷹は驚いて振り向いた。
 天国は知っていたのだ。
 自分が武軍装線の神鷹であると。(名前は知らないだろうが)

 「マジ助かったからさ。
  ちょっとくらい休んでけよ。」

 天国はにっこりと屈託のない笑顔を向けた。


 神鷹はその笑顔に真っ赤になって手話をした。

 「………っ!」

 だが手話を知らない天国にはそのあまりに早く繰り出される手話はまったく意味不明であった。

 「いや、わかんねーって。
  手話知らねーし。」

 
 
 「……。」

 あ、そうか。といった仕草で神鷹は少し考えた。

 (司馬みてーなとこあるな。この人。)

 天国はその様子に無口で優しいチームメイトを連想していた。


 そんなことを思っていると、神鷹は天国の手をとった。

 「?」

 そして、天国の手のひらを指でなぞった。
 

 (自分が武軍の人間だと知っていたのか)

 「あ。」

 神鷹は天国の手のひらに字をなぞっていくことで意思を伝えた。

 そして天国は答えた。

 「ああ、最初は分かんなかったけど。
  「手伝う」って手振りしてたときにな。」

 (嫌ではなかったのか 自分は敵だ)

 「あー?そりゃ試合んときはムカついたけどな。
  今手伝ってくれたし。
  怪我した先輩もキャプテンも別に死んだり再起不能ってな訳じゃないしさ。
  戦争じゃねーんだからそれ以外でごちゃごちゃ言ってもな。」

 天国は苦笑しながら答えた。
 
 (すまなかった)
 
 「あー、それは先輩に言えや。
  オレに言ってもしゃーねえだろ?」

 
 天国は一瞬真剣な目をしてそう言った。

 正論である。


 (そうだな)


 そこまで書くと、天国はまた笑顔をむけた。

 「で、オレの礼は受けてくれるわけ?」

 
 神鷹は少し考え。


 そして答えた。


 (今日は遠慮する あまり時間がない)

 「えー?何だよ、せっかく…。」

 (その代わり)


 「ん?」




 (次に会ったときにしてくれるといい)

 
 「え?でも次って…。
  …んー。次のおれんとこの休みは再来週の日曜だけど。
  あんたは?」

 (同じだ)


 「そっか。じゃあ再来週だな。
  えっと…あんた 名前なんだっけ?」


 (しんよう だ  よろしく さるの あまくに)

 「ああ!」



 機会は逃さず、次に結びつけて。


 最後に出る結果は神様だけが知っている。  


                            END


激マイナー神鷹×猿野です。
123発目で深追いして気絶した神鷹くんのつむじを見ていると思いついた話です。(なんでやねん)
こんなもん投稿してよかったんでしょうか。(聞くな)

でも書いてて楽しかった!

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