この話は「サイドエム」松井2号さまの剣猿漫画「Gyve」を元にして書かせていただきました
「枷」の続きです。「Gyve」はこちらから飛べます。→
凪ちゃんがハンパなく黒いです。ご注意を!
「なんだ今日も猿野は休みか?」
身体が小さく震えるのを感じた。
お兄ちゃんが死んでから一週間。
猿野さんはまだ
ここに戻れないでいる。
「鳥居くん、ちょっといいかな?」
「はい、牛尾先輩。」
私は猿野さんが来なくなって一週間が過ぎた頃、牛尾元主将から呼び出しを受けた。
用件は大方理解していた。彼の事だろう、と。
「呼び出したりしてごめんね。…君も分かってると思うけど。猿野くんの事なんだ。」
ああ、やっぱり。
「君の言葉なら…彼に届くと思うんだ。」
そうならよかったのに。心からそう思った。
だけど、私の口は別の言葉を返した。
「分かりました…私、猿野さんとお話してみます。」
「ありがとう…。頼んだよ。」
牛尾先輩はいつもより悲しげな笑顔で私にお礼を言った。
先輩、あなたも悔しいのですね。
私も…悔しいです。
死んでなおあの人を放さない枷が…
そしてそれを思い出させることしかできない私自身が。
#######
「やっぱりここだったんですね…猿野さん…。」
思ったとおり、あの人はここにいた。
お兄ちゃんの入ったお墓に…。
猿野さんは、あれから毎日この場所に通っている。
ココに来て、ただこの場所にたたずんでいる。
誰の声も聞かずに、誰の声も届かずに。
今日も私の声は届かない。
「………。」
こんなこの人を見る日が来るなんてあの頃は思わなかった。
『凪さん』
初めて会ったときから、ずっと私だけを見てくれていたのに。
私もずっとあなたを見ていたのに…。
それなのに。
『てんごくくん』
よくも。
ドガッ
「!!」
あ…やっと私を見てくれた。
悔しくて腹が立って、つい、蹴っちゃったけど。
できるなら砕きたいけど、それじゃダメだから…。
「凪…さん…。」
「猿野さん。」
私は自分の顔に満面の笑みが浮かぶのが分かった。
猿野さんは驚いてる。
私がお兄ちゃんのお墓を蹴ったから。
信じられないような、顔で。
飾ることのない素の表情で。
「凪さん…今、剣菱さんの…。」
「猿野さん、学校へ行きましょう。 皆、心配してますよ。」
私はいつもよりもにこりと笑った。
そんな私に戸惑いが隠せないよう。
「凪さん…?」
「行きましょう。」
お兄ちゃんはもうどこにもいないんですよ。
たとえ私の姿が、お兄ちゃんを映していても。
私が鏡でしかなくても…。
もう、あの男はいないの。
「ね?猿野さん。」
「……。」
ああ、でもまだ枷がはまっているのね。
まだ動けない。
「…猿野さん…。」
でも、動かしてみせる。
私は枷を自由に動かす鏡となって。
「お兄ちゃんは、猿野さんに野球をやって欲しいって言うと思いますよ?」
「!」
ほうら、動いた。
「ね…?」
「そう…ですね…。」
「行きましょう。」
「…はい。」
私は自由に枷を映し変えよう。
そしていつかは…。
あなたのもうひとつの 枷に なる。
ねえ、お兄ちゃん。
見てて…ね?
end
調子に乗って「枷」の続編です。
快く許可いただき、2号さん本当にありがとうございました!いやあ黒いなあ。
気付けば裏のミスフル小説はほとんど鳥居兄妹の確執ですね。
恋は恐ろしい。(おい)
でも書いててかなり楽しかったです。
自分がどれほど凪ちゃんを勘違いしてるかよくわかります。
今回はとことん罰当たりですし;凪ちゃんファンの方、本当にすみません!!
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