こいあうもの


九 誰かが示した道を歩むよりも自分の選んだ道を、後悔はしないから

「竹中半兵衛…!?…何故…。」
突然気配なく現れた影に、その正体に
幸村は驚きの色を隠せなかった。

それはかすがも同じだった。

「竹中…豊臣の軍師が何用だ!?」

かすがの声に、半兵衛は視線を向けた。
「君は…確か上杉の忍びだったね。
 君には用はないんだ。
 
 僕が話したいのは、幸村くん。君だよ。」

まだ驚愕の色を拭いきれない幸村に、半兵衛はゆっくりと近付いた。
足音すら聞こえないのは、その姿に呑まれているからか。

半兵衛は幸村の目の前に立つと、ゆっくりと口を開いた。

「真田幸村…単刀直入に言わせてもらいたい。
 耳は聞こえているかな?」

からかうような声音に、幸村は少なからず気を悪くしたのか。
眼差しを強くして半兵衛に答えた。

「…聞こう。軍師殿。」

「結構。では話させてもらうよ。」


そして、改めて半兵衛は言葉を紡ぐ。


「真田幸村。君に豊臣軍の力となって欲しい。」



「…っ。」

「な…!!」


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「父上、上杉の忍びから連絡が参ったとのことです。」

「…そうか…して、首尾はいかに?」

「…生きていました…源二郎は…無事に、上田に向かっている、と…。」

「……そうか…そうか…。」


声が震えた。
情報は確かだったのだ。


「源三郎。すぐに草を向かわせよ。
 まだ…間に合う。」


「はい。直ちに。」



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「驚かないね。予想はしてたのかい?」

「そなたが来た…ということは…と言う程度には。
 ……某にそのような価値があるとは思えぬがな。」

「随分と過小評価をするね。
 まあ慢心するなというのは信玄公の教えだろうけど。
 …慢心しないのはいいけど…卑屈はキライだよ、僕は。」

敬愛していた主君の名を出され、幸村の拳はわずかに反応する。
だが…感情は力とならず。
問いとなって幸村の口から現れた。

「……卑屈か…。」


「そう見えるよ。

 まあそんなことはどうでもいいけどね。
 僕が欲しいのは結論だ。

 どうする?」

半兵衛は幸村の自責に興味は示さず。
答えを聞いた。


半兵衛の問いに対する答えは決まっていたのか。
幸村はすぐに答えた。


「断る。」


しかし半兵衛は驚いた様子もなく、聞いた。


「理由は?」


「某は上田に戻るところ。
 上田にある真田家は上杉についている…。」

「ああ、そうだったね。
 その忍びのお嬢さんがいるのもその繋がりというわけだ。」

半兵衛はまたちらりとかすがに視線を向けた。
かすがは睨み返すが、特に堪えた様子を見せなかった。


「でもね、幸村くん。」


「何か。」


「今上田は徳川に責められようとしている。知っているかな?」

「何だと!?」

半兵衛からもたらされた情報に。


幸村は目をむいた。


「だけど、上杉は助けをよこさない。」

「な…!」
「!」

続けられた言葉に、かすがも驚愕した。

「そんな…!」
謙信が没した今、さらに内輪で争い力を弱めた上杉とはいえ。
いや、だからこそ同盟国を見捨てるなど。
かすがには信じられなかった。

謙信ならそんなことは。

謙信なら。



半兵衛は話を続ける。

「そもそも上田は徳川と真田で争っているにすぎない場所だ。
 上杉に上田の地を守る義理はない…違うかな?」


「……。」
幸村は口をつぐみ、耳を傾けた。

それを上杉の忍びであるはずのかすがは
止めることはできなかった。

「上田の主、真田昌幸…君の父上だったね。
 彼は長男真田信之と共に戦の用意に奔走しているよ。

 君の父上は恐らく、上杉が来る可能性は五分と見ているだろう。
 孤立無援となっても戦えるよう陣を構えているね。」


ぐ、と幸村の拳は固まる。

「…豊臣は…援護を下さるか。」


半兵衛はかすかに口の端をあげた。

「真田昌幸は智将の誉れ高い男だが…
 武田が滅びた後に織田、上杉と渡り歩いた小大名。
 助ける価値があるかと問われれば…。」




「昌幸がどのような人物であるとしても、信用は難しい。
 また裏切るやもしれない。」

「違う!父上は…!!」



「だけど。」




「真田源二郎幸村。紅蓮の鬼を手にできるならば。」


「!」



「真田は助ける価値有りと見るだろう。
 
 当然、秀吉も…だ。」



「……。」



「さて、どうする?真田源二郎幸村くん。」





幸村はもう一度、拳を強く握り締めると。


一歩前に歩き。
一歩かすがから離れ。




言った。




「参ろう。」


「!!」
迷いなき一言に、かすがは顔を上げた。


「だが。某が参るのは上田。
 豊臣に下るかは…覇王次第。」


その答えに、半兵衛は笑った。


「あははっ尤もだ!
 でも保証するよ、君が居れば秀吉は動くからね。」


高く声を上げて笑いながら、半兵衛は踵を返した。


「待っているよ、幸村くん。
 君が大阪の地に来るのをね。」



「……天で見ているよ。秀吉をよろしくね…。」



それだけ言うと、半兵衛の姿は闇に掻き消えた。



幸村は、驚いた顔もせず。


前を見つめていた。




前を。



                          To be Continued…



えーと、ダテサナから次第にかけ離れてます;すみませんこんなんで。
史実にあることもちょっとずつ織り交ぜつつ話を進めておりますが;
ちゃんとダテサナに帰結できるように考えては居ますので!!

最後にとってつけた感じですみませんが、半兵衛は幽霊さんでした。
せっかくお館様や佐助を悼んでたのに来たのがこれってのはちょっとなーとも
思ったんですが…;
これ以上半兵衛さんを動かすのは無理でした…私的に。

ではでは、今回はこの辺で。
早く伊達さん出せたらいいな…;


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