心の中に君がいるから独りぼっちになったことはない


「いつか また 縁があれば会おう。
 そのときに君が私についてきてくれる気があれば。」


その時こそ。


公孫讃将軍の下で、劉備玄徳に会ってから。
趙雲子竜はただ己を磨くことに心身を傾けた。

あの方のために。
あの方のために。

そのために。

その気持ちがあったからこそ。


母が逝って、ただ一人この大地をさまよっていても。
趙雲の心には常に暖かく強い眼差しのあの笑顔があった。



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「何を思っているのだ、趙雲…?」
「…殿…いえ、少し…思い出していて…。」


褥を共にするようになってからどれくらいになるか、もう趙雲には覚えはなかった。
だがそうなってからは一日一日がどれほど幸福に満ちていることか。
それだけはよく分かっていた。


今は、先に寝入ってしまった劉備を眺めていたのだが、どうやら目を覚ましたようで。


「それより…申し訳ありません、殿の眠りを妨げて…。」
「そのようなこと、気にするでない。」

いつもどおり柔らかく許してくれる。
だが、少しばかり機嫌が悪いように感じられる。


「殿?何か…お気を悪くされましたか?」
「…別に…。」

どうも明らかに機嫌が悪い。


公式の場であれば、跪いて謝罪をするが…。


今は、恋人の時間。


趙雲は劉備の肩を覆うように抱き込むと、劉備の顔を寄せた。


「し…子竜…。」
「…教えていただけますか?貴方のご機嫌をそこねた私の失態を…。」

言葉はいつもどおりに劉備に絶対の忠誠を誓っているが。
態度が明らかに違う。


(//…たかが5ヶ月でこうも変わるか…。)
劉備は呆れ半分で、だが半分は大胆な趙雲に心を揺らされていた。

そして、目の前の美丈夫な恋人に見ほれた。


なかなか帰ってこない趙雲は焦れているのかもう一度劉備に聞いた。


「…なぜ怒っておいでですか?…玄徳殿…?」


「…っ!」
突然字を呼ばれ、今度こそ劉備は降参した。



「…くだらぬことだよ。
 さっき私が傍にいるのに何を思い出したのか、と思ってな…。」
初めて恋をした童でもあるまいに、と二種類の気恥ずかしさで劉備は頬を染める。



それが何とも可愛らしく。
趙雲の男心に直接響くものであった。


「玄徳殿…。」
「ちょ…しりゅ…ん…っ。」


趙雲は心のままに腕の中の劉備を抱きしめ、口づけた。


奪うように、食らうように。


思い出していた、傍にいられなかった日々を取り戻すように…。



貴方に会いたい、それだけを思った日々を。




それでも私は 心の中の貴方が居たから 一人ではなかったけれど。


今は、夢にも現にも幻にもあなたは存在する。




「愛しています、玄徳殿…。」



「私もだよ…子竜…。」



夜は、まだ長く二人を包み込んでいた。




                                        end


お題提供:夢の忘却 管理人:沙羅様

…ヘタレじゃない趙雲て初めて書きました。
行動はイメージ的に孔明ですが、お題は彼向きじゃないような…いえ、私的にですが…。


というわけで、1週間はあきましたが三国短編でした。

今度は誰にしよっかなあ♪


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