オレとあいつとこいつとキミと
薄紅
「やはり慶次殿の騎馬でしたか。」
「うん、ホントごめんね。
まさか二人に置いてかれるとは思わなくてさ…。」
夢吉と馬を迎えに来た慶次は、そのまま城門へと迎えられた。
慶次の馬ならば、と城の家臣たちも安心したのだろう。
だが、やはり慶次と…そして幸村以外に触られるのを嫌うようで。
馬場の傍まで二人で来たのだった。
今も馬が傍にいた。
「それにしても立派な馬でござるな。松風殿、と言われるのか?」
「ああ。野にいたんだけどあんまり美人だからさ。連れてきたんだ。
あ、男だけどな。」
くす、と幸村は笑う。
その笑顔に、慶次は少し見とれる。
「…にしても驚いたな。」
「?何がでござるか。」
ん、と少し間をおいて慶次は言葉を続けた。
「松風がこんなに人に懐くの、オレ初めて見たよ。」
「…そうでござるか?」
「そうだよ。オレが口説いた時もなっかなか靡いてくれなかったんだぜ?」
「慶次殿が最初に松風殿の心を開いたのですな。
だから某には警戒をしなかったのではござらぬか?」
「……。」
返された笑顔に慶次は少し驚く。
戦場で最初会った時は激しい炎のような少年だと思った。
あまりにも愚直と言えるほどにまっすぐで、熱い。
そんな印象で。
戦場以外で会っても恋の話に頬を染めて、甘味に喜び取り留めのない話に屈託なく笑う。
だけど、それだけじゃなかった。
こんな風に人の心に恐れもなく染みる笑みをも見せる。
騎馬をも動物でなく仲間として接してくれる。
それはけして押し付けてくる優しさではなくて。
「…やばいな、凄い好きかも…。」
「え?何か…。」
小さな呟きに、幸村は振り向く。
その子どものように純粋で大人のように凛とした姿に。
慶次は引き寄せられるように感じた。
そしてそのまま、幸村の腕を引くと。
「え…慶次、殿?!」
「幸村。」
広い胸の中に幸村を閉じ込めた。
「慶次殿…?」
「好きだ。」
「…!」
「大好き。愛してる…幸村。」
少し水のにおいがする。
まだ湿った髪が鼻をくすぐる。
反応しない幸村に、慶次は急ぎすぎたかなと思う。
恋の話には免疫のない幸村に、すとれーとだったかも…と思い始めた。
だが、耳を疑う答えが返ってきた。
「某も…で、ござる。」
「ええっ??!!」
驚いて幸村の顔を見ると、やはり頬を染めていた。
だけど、自分の顔をはっきりと見てくれた。
「…ホントに?」
「……。」
こくり、と頷く。
その仕草があまりにも可愛く見えて。
慶次は再び見上げてきた目を見て。
それから、口付けた。
(松風のおかげ…かな。)
威風堂々した馬の影で実った恋を、松風は知ることはなかったが。
主君が幸せになったことは。
少しだけ、分かったように。
松風は大きく嘶いた。
end
完璧にニセモノな幸村ですみません!!
誰だこれは!!
砂糖吐きを目標にしましたが…いや、まだまだ…。
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