さようなら




明日、彼は結婚する。
俺の妹と。


「ん…っ…。」
「……………。」

鳥居家の一室。
天国は明日妻となる女性の兄と、キスしていた。

二人きりになったとき、どちらからとも無く唇を寄せ合っていた。


どれだけ非常識なことをしているかなど、よく分かっている。
だけど、そうせずにはいられなかった。

明日になれば。

永遠に彼とは離れてしまうのだ。


「剣菱さん…もう…。」
「ごめん…もう少し、だけ…。」
「ダメですよ、凪さんが…。」

「分かってる…だけど、もう少しだけ…。」


これが最後だから、という言葉は飲み込んだ。


もう二度と会えないわけではない。
それどころか、義理の兄弟としてお互いに顔を合わせる機会は多くなるだろう。
ただ、それは兄弟として…。

恋人としてのお互いにはもう二度と触れ合えない。



だから言えなかった。



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天国が凪と正式に付き合うようになってから3日目のこと。
剣菱は、それを知らずに天国に思いを告げた。

当然のごとく天国は凪と付き合っていることを告げて、剣菱の思いを断った。
だが、次の瞬間。
剣菱は天国の身体を抱き寄せて口付けた。

それでも構わないから、と言って。


その言葉を、天国は信じられない思いで聞いた。

「アンタが…そんなことを言うんですか?
 凪さんを悲しませたら許さないって…いつも…。」

「そうだよ…?だから悲しませないように…。」


オレと秘密を共有しない?


卑怯な手段だと、分かってたけれど。



罪悪感を無理矢理共有させた。


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「もういいでしょう?剣菱さん…いえ、お義兄さん。」

ずっと昔に封じ込めた呼び方で天国は相手を呼んだ。
これでもうこの関係は終わるのだ。


「うん…今までありがとう、てんごくくん…。

 さようなら…。」


「はい…。」


そして二人は、離れた。



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「天国さん、こちらだったんですね。」
「…凪さん。」

部屋を出ると、明日から伴侶となる女性の姿が目に入った。

初めて会ったときから変わらないやわらかい笑顔。

もう、この笑顔に嘘をつかなくてもいい。

そう思うと、安堵を感じ。

だが、寂しさも感じていた。


あの人がくれた愛情は、決して嘘ではなかったのだから。



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「てんごくくん…ホントはね、結婚くらいで離すつもりはなかったんだよ…?」

そんなことで離すくらいなら、最初から秘密なんて共有しなかった。
そんな方法を使ってまで手に入れなかった。

「そのつもりだったんだけど…ね。」



二人の婚約が決まった、あの日。
凪は兄に言ったのだ。



『これで返してくれる?お兄ちゃん。』



鮮やかに笑って。



その瞬間剣菱は彼女が全てを悟っていたことを知った。



『な、ぎ…。』


『返してくれるわね?お兄ちゃん。』



見たことの無い激しい意思を秘めた瞳で、凪は繰り返した。



『返してくれないなら…知ってるってあの人に言うわ。』

『あの人は優しくて弱いから、私からは離れない。
だけど…お兄ちゃんにはもう近寄れないわ。』


剣菱に返す言葉は無かった。
きっと凪の言うとおりになる。

凪が、二人の関係を知っていることを知ったら。
本当の別離が待っている。



それならば、せめて。



彼にとって綺麗で安らかな別離を。


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「…愛してるよ…てんごくくん…。」

だからせめて兄弟でいることを許して欲しい。




だから今 さようなら


                            end


突発小説ばっかりですみません…。早くリクエスト消化しないと…。
ダーク凪ちゃんに拍手が来たので調子に乗って書いてしまいました。
それに今七橋がんばってますからね〜。手痛くてひどい話を書きたくなりました(笑)

そんなわけで結婚前夜です。昼ドラ風味の…。


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