世界一


世界で1番愛してる。

なんて現実味のない言葉だろう


そんな風に思ってた。


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「野球はLOVEなんですよね、牛尾先輩。」
「なんだ、猿野くんか。どうしたんだい?薮から棒に。」

牛尾たち三年が野球部を引退して一月。
あれからも牛尾や他の三年生たちは週に、最低一度は野球部の様子を見に来ていた。

この日も牛尾は野球部を訪れ、後輩の練習を眺め入っていた。

その時にふとかけられた声がそれだった。
相手は後輩の、猿野天国。

いろいろな意味で、野球部の名物といえる人物だった。

その彼が話しかけてきたのは、牛尾が彼と…1年生と初めて顔合わせをした時にいった言葉。


その時は、彼はまだ本当に野球初心者で。
元気でまっすぐで…でも、礼儀を知らないかな、と思うような行動をする後輩、という印象を持った。

それからわずか数ヶ月で、牛尾にとっての彼の印象は大幅に変わることになったのだが。


天国が話してかけてきた内容は、その頃の事。


「あの時は、凄い思い込みだよなって思ったんですよね。」

「…そうだろうね、まだ君は初心者だったし。」

天国が続けた言葉は、牛尾にとって予想できていたことだった。
なぜ自分にその話を始めたのかは疑問だったが。


すると、天国は少し照れながら言った。



「でもね、今はオレも野球…LOVEっすよ。」



へへ、と鼻をかきながら。
天国は牛尾に嬉しそうな幸せそうな笑顔を見せた。



その笑顔は、とてもすがすがしく、何よりも綺麗で。
牛尾はつられて笑顔になるのがわかった。


「その言葉、僕もうれしいよ。」



「…いえ、ホントに…先輩にはお礼が言いたいんす。
 オレがこの十二支で仲間との野球を好きになれたのは先輩のおかげですから。」

いつもより真面目な声で言った。


牛尾はふと、聞いた。


「愛してる?」


「…はい。」


満面の笑みで返された答え。

その質問に目的語がないことに、天国は気づかなかった。

そして牛尾はその答えに、チリ、と疼いたのに気づいていた。



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「愛してる…か。」

自宅に戻った牛尾はお気に入りの紅茶を飲みながら、まだ休まらない気持ちを抱えていた。


本当は、愛なんて信じていなかった。
野球は大好きだけど愛していたかは…ついに分からなかった。

だから口に出し続けていた、自分に言い聞かせるために。


愛してると、野球はLOVEだと。


…本心で愛していると言えた天国。
愛しているということだけしか出来なかった自分。


羨ましいと、思った。


天国に嫉妬した。


そして野球にも嫉妬していた。



牛尾は、天国の満面の笑みをみた瞬間に気づいたのだ。



今 自分は 世界一 愛している。



傷ついても前を向いて頑張って、野球を愛した心ごと。



それが自分が持ちえた 世界に唯一で 最高の愛情。



牛尾はふと口の端をあげると。


電話を手に取り、ボタンを押した。





『はい?』


「やあ、こんばんは。


 猿野くん。」



どうか君の持ちえた愛情ごと、僕を受け入れて。




世界一の愛情をあげるから。



                                     end


またもリハビリです…2週間以上更新停止状態で申し訳ありませんでした!!

しかもわけ分からないし。
この牛尾さんは黒いかもしれないし白いかもしれない。
どちらでも好きなほうを想像してくださいませ^^;)

現在全国高校野球選手権大会の真っ最中。
うちの地元は今日負けましたが、今年の大会は見ごたえのある試合が多いようですね。
高校球児たちの熱い夏は、普段は野球に興味なくとも心に響きます^^)



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