再会 そして・・・。(side K)

 その日ある街の中学校の校内で、ちょっとした騒動があった。
 これはそれが起こる数分前のお話・・・。


 「ケン一君、帰るの?」
 「あ、夢子ちゃん。 うん。掃除早く終わったしね。」

 声をかけたの、はなかなかの美少女。毛先を軽くカールさせたボブカットがよく似合う、魅力的な少女だった。
 声をかけられた少年は、こちらもなかなかの美少年である。ややくせのある髪、大きな瞳が印象的で少年特有のあどけなさを強く残していて、非常に魅力的な笑顔であることが容易に考えられる。
 実際に彼はまだ少年の年齢であり、男らしさとはまだ縁がない、と言った雰囲気である。ともすれば少女にも見えた。
 少年の名は三葉健一。中学二年生である。
 少女は彼の幼なじみであり、また大切な友人である。ケン一にとっては憧れの存在でもあった。
 しかし、彼女はケン一に対して友人以上の感情は持っていないそぶりをするため、ケン一は自分の気持ちを伝えることなく友人の立場を保ってきていたのだった。


 「そっか。ね、一緒に帰りましょ。久しぶりに。」
 「ホント?! もちろん!」
 そんな彼女の申し出に、ケン一は当然のごとく喜んだ。夢子にとっては偶然見つけた幼なじみに普通に声をかけているだけであるだろうが、
ケン一は夢子と共に帰れるだけでも嬉しかった。
 
 彼女、夢子は中学に入ってからバトン部に入部し、忙しい日々を送っていた。そのため帰宅部であるケン一と一緒に帰ることなど滅多になかった。この日、偶然にも部活が休みで、帰ろうとする矢先ケン一の姿を見つけた。あまり表情には出さなかったが、それは夢子にとっても喜ばしいことであった。中学になり成長するにつれどんどん美しくなり、また落ち着いた優しさを身につけていったケン一に夢子は男性として好意を感じていたのだ。
 ケン一の方は気付いていないことだったが。

 小学生の頃、ケン一は元気で明るく、ちょっと頼りないが優しい、少年らしい少年だった。そのころ彼の周りには風変わりな友人達が取り巻いていた。
 伊賀の里から来たという忍者の少年達だった。
 服部貫蔵、その弟の服部心蔵、そして甲賀忍者である煙巻ケン三の三人。
 彼らはケン一にとってかけがえのない大切な友人だった。ケン一は彼らに時に頼り、学び、多くの日々を共に過ごしていた。
 その三人が、突然帰郷の徒についたときは大きく意気消沈していたが、徐々に寂しさに耐えられるようになり、彼らとの日々を大切な思い出として心に留めていた。
 そしていつしか思いやりと、暖かさと、強い意志を持った少年として成長していったのである。

 
 ケン一と夢子はとりとめもない会話をしながら校門に向かっていた。すると、校門の前に人だかりが見えた。
 ほとんどが女子で、まるで芸能人でも来たような騒ぎ方である。
 「なんだろ?」
 「さあ・・・。誰か有名人でもいるって感じね・・・。ね、ケン一君。ちょっと行ってみましょ!」
 「あ・・・夢子ちゃん!」

 ケン一は夢子に手を引かれ人だかりの方に走っていった。
 
 
 案の定、そこには人がいた。
 有名人ではなかったが、驚くほどの美青年である。
 切れ長の瞳は表情を見せることなく、神秘的な雰囲気を醸しだし、口元はきりっと結ばれており、意志の強さを垣間見せる。
 艶やかで腰まである長い髪をひとまとめにして誰かを待つように校門の隅に立っていた。周りの騒ぎなど全く意に介していない様子である。
 そして、黒いシャツに黒いズボンを身につけており、それが180cm以上はありそうな長身を際だてて見せた。

 「・・・すごい綺麗な人ね・・・。誰かを待ってるのかしら・・・?」
 人だかりの中で夢子は側にいるケン一に話しかけた。
 「何かそれっぽいよね。でも、ホントかっこいいなあ・・・。」
 ケン一はその人物の姿を見て感嘆の声を漏らした。

 ケン一がその言葉を発したとき、その人物は初めて反応を示した。
 そして、人だかりの中をまっすぐにケン一と夢子の方に向かって歩いてきた。

 「え?何かこっち来るみたいだけど・・・。」
 驚いているうちに彼はいつの間にかケン一の目の前に立っていた。

 「え、と・・・あの・・・?」
 ケン一は神秘的な美青年を前に戸惑いの表情を見せた。彼はまっすぐに自分を見つめている。他の誰でもなく、ケン一を見つめていた。
 ケン一の戸惑いにちょっと困ったような微笑みを浮かべ、彼は初めて言葉を口にする。


 「久しぶりでござる、ケン一氏―――。」



 懐かしい呼び方、懐かしい笑顔・・・・。

 僕をそんなふうに呼んだのは・・・・。



 「・・・ハットリ君?!!ハットリ君なの?!!!」 



  顔の半分を目にして驚くケン一に、にっこり笑って彼は言った。
 「さようでござる。服部貫蔵、ただいまケン一氏の元に再び戻ってきたでござる。」
 
 「ハットリ君・・・。ハットリ君!!」
 感極まって、ケン一は思わずハットリに抱きついた。
 人だかりの視線などその時のケン一にはないも同然だった。

 しばらくして落ち着いたのか、ケン一はハットリから身体を離し、顔を見た。

 「いつ戻ってきたの?!それに、すごく格好良くなったねー!全然分からなかったよ!あ、シンちゃんは元気?!一緒じゃないの?!」
 ケン一の質問責めにハットリは笑顔を見せるだけだった。ケン一の表情にもハットリの表情にも嬉しくて仕方ないという気持ちがはっきりと現れており、側で見ていた夢子は微笑ましく思いながらも、少し嫉妬した。

 「もう、ケン一君てば。ハットリ君がしゃべれないじゃない。少し落ち着いたら?」
 「夢子どのも、お久しぶりでござる。」
 「久しぶり!ハットリ君。ホントカッコよくなったのねー。そのしゃべり方聞かないと分からなかったわ。」
 「夢子どのこそ、綺麗になったでござるよ。」
 「あら、口もじょうずになったのね。」
 クスクスと笑う夢子とハットリを見て、ケン一は少しむっつりして、ハットリにささやいた。

 「ハットリ君、夢子ちゃんに手出ししないでよ?」




    心の奥が   ズキンと痛んだ




  「しないでござる。安心してくだされ、ケン一氏。」
  苦笑しながら、ハットリは言った。
  「約束だよ?」
  小首を傾げながらケン一は念を押した。


  「勿論で・・・ござる。」