「いってきまーす!!」 「いってらっしゃい。ケンちゃん。本当に大丈夫?なんだったら休んでも・・・。」 心配そうな様子の母に向かい、ケン一は何のことか分からない、といった様子で答えた。 「何が?ボク元気だよー?」 昨日脱衣所で錯乱した様子は微塵もない。 母は怪訝に思いながらも昨日のことを触れることはできなかった。 そうすることで余計に息子を傷つけることになるのではないかと心配だったから。 「いってらっしゃいでござる。ケン一氏。」 「いってらっしゃい、ケンちゃん。」 「うん、いってきます。ハットリ君、シンちゃん。」 ハットリ兄弟にも挨拶を交わし、ケン一は登校していった。 息子を見送った後、母は家へ戻っていった。 ケン一の母が家へ入るのを確認するとシンゾウは兄に声をかけた。 「兄上・・・。ケンちゃんの記憶操作したの?」 「ああ。あの状態ではケン一氏の精神に負担がかかりすぎるのでな。」 「・・・やっぱり襲われたんだ・・・。」 「・・・・・・・。」 たまらない気持ちが二人の中に押し寄せてきた。 護れなかった。 誰よりも大切な・・・友を。 愛する人を。 「兄上・・・相手・・・わかる?」 「分からない・・・。拙者達は昨日ここに戻ってきたばかりでござるからな・・・。見当もつかぬ・・・。」 「しかし、ほおっておくわけにいかぬ。シンゾウ。ケン一氏が下校する時間に合わせてケン一氏の護衛に入るぞ。」 「了解だよ。兄上!!」 「おっはよー、夢子ちゃん!」 「あ、おはようケン一君!」 ケン一は学校に着くと夢子に会い、いつもどおり挨拶を交わす。 「ケン一君、昨日ケムマキ君と放課後一緒になったんですって?」 「え・・・?あ、そうだったかな?昨日って何かぼけーっとしててさ。」 「そうなの?でもケムマキ君とケン一君が一緒だったって聞いてなんか残念だったのよ。私もいろいろ話したかったのに。」 「うーん、でも覚えてないし・・・。間違いじゃないかな・・・。」 「何か変ね。ケン一君。風邪でもひいたんじゃない?」 「そう・・・かも。」 ナニモ ナカッタンダヨネ・・・・。 「ケン一!夢子ちゃん!」 「あら、噂をすれば・・・ね。ケムマキ君、おはよう!!」 !!! 「やあ、ケン一。昨日はどうしたんだい?いきなり倒れたりして・・・。」 思い出したか? おれがお前に何をしたか 「え・・・えっと・・・。倒れたの?僕。」 ケン一は身に覚えのないことを言われ、少し混乱していた。 ほんとに覚えてないや・・・こりゃ本気で風邪をひいたかな・・・。 ケン一の混乱をよそに、夢子は倒れたと聞いて驚きをあらわにした。 「倒れたんですって?!本当に大丈夫?ケン一君!先生に言っとくからしばらく保健室で休んだほうがいいわ。」 「え・・でも今はなんとも・・・。」 「だめよ!倒れるほど昨日辛かったんでしょ?無理は禁物だわ!!」 夢子は強引にケン一の腕を引っ張ると、傍にいるケムマキに先生へ報告を頼みケン一を保健室に引っ張っていった。 ケムマキはケン一たちを見送りながら先ほどのケン一の状態に思いを馳せていた。 ・・・忘れている? ふん。 (伊賀に伝わる忘却術・・・か。12時間以内のことを完全に記憶から消去するという・・・。) 早々に処置をとったか・・・。流石というか・・・。 (だが・・・甘いな。) ケン一は保健室でぼんやりとしていた。 実際に術の副作用で軽い頭痛が出ていたのもあり、1,2時間目は休ませるということで担任も納得し、養護教諭は会議に出て行った。 (なんで・・・覚えてないんだろ。いくら風邪でもちょっとぼんやりしすぎかなあ・・・。) (まあ・・・いっか。少し休んだら頭もすっきりするよね・・・・・・・・・そうだ・・・ケムマキにも・・・謝って・・・) 昨日の疲れが残っていたのか。 ケン一はそのままうつらうつらと寝入った。 ケン一が寝入ってから数十分。 「ったく、忘れてるとはいえ無防備極まりねーな。」 くすくすと笑いながら保健室に現れた影。 ケムマキであった。 すやすやと眠るケン一の頬を獲物を捕らえ舌なめずりするようになでると、おもむろにケムマキはケン一の唇に口付けた。 こくん・・・ 「ケン一・・・。7時間後・・・7時間後だ。楽しみに待ってるぜ?」 そして・・・見ていろよ・・・ ハットリ・・・・・・・・・。 |