想いの暴走(ライバル出現編)
 
 
 



 伊賀の優秀な忍者、ハットリは故郷で自立を許され、少年時代を共に過ごしたケン一のもと、東京に向かい、親友との再会を果たした。
 ところが、久しぶりに会った友に対しハットリは恋愛感情を抱いてしまった。

 そんなことも知らずケン一は彼と共に暮らすことを決めたのだった。




 「ねえ父さん母さん、いいでしょ?ハットリ君ここで暮らしても。」
その夜ケン一は両親にハットリの滞在を許してもらえるよう頼んだ。ケン一の両親に異存はなかった。
ケン一の両親も、かつて共に暮らし、息子の良き友人であってくれたハットリが戻ってきてくれたことを非常に嬉しく思っていた。
 「もちろんよ。また賑やかになって嬉しいわ。ハットリ君、遠慮しないで家に居てちょうだい。此方から頼みたいくらいよ。」
 「ああ。ハットリ君は昔からしっかりしていたしな。こんなに立派になって私たちも嬉しいよ。またケン一と仲良くしてやっておくれよ。」

 ケン一の両親の言葉はハットリにとっても嬉しいことである。ハットリ自身もケン一の側にいることを望んでいた。しかしケン一の側にずっと居ることはケン一の父母の信頼を裏切る可能性をはらむ原因となる。ハットリの心中は複雑であった。

 だが、このように歓迎してくれるケン一の家族に対して、拒む理由を見つけることは出来なかった。

 「かたじけない。それでは、またお世話になるでござる。お二人にはどのように感謝して良いか。」
 「何言ってるの、水くさいわねえ。」
 「そうだよ、ハットリ君!僕たちの仲じゃない!」
 ぽん。とハットリの肩を抱くケン一。ハットリは胸の動悸を押さえることに集中していた。


 
 「あー楽しかった!あんなに母さん達が機嫌いいのも久しぶりだよ!」
 「そうでござるか。お二人とも相変わらずでござるな」
 夕食を終え、しばらく家族で談笑してからハットリはケン一の部屋に上がった。
 懐かしいケン一の部屋は、少し本が多くなっていた。

 「ケン一氏、今日の宿題はよろしいのでござるか?」
 「ああ、明日までに提出するものはないから。今日は別に良いよ。」
 「中学では毎日の宿題はないのでござるか。」
 「うん、時々はあるけど・・・。小学校のころみたいに毎日定期的な宿題はないよ。」
 「自主的な勉強を勧めているでござるか。」
 「うーん、まあそんなとこかな。でも今日はハットリ君が帰ってきてくれたから、勉強は休みなの。」
 「・・・ケン一氏。」

 ケン一は優しい瞳でハットリをじっと見つめた。ハットリもケン一から視線をはずすことが出来ない。

 「・・・すごく嬉しいよ。戻ってきてくれて。」
 「・・・拙者もケン一氏にあえて嬉しいでござる・・・。」

 ケン一はゆっくりとハットリに近づき、ふわりとハットリのたくましい身体を抱きしめた。
 「・・・・・・夢じゃないんだね、ハットリ君・・・。」
 「け、ケン一氏・・・。」
 ハットリは理性を保つのに必死になっていた。ケン一のしなやかで小さな身体が、柔らかな頬が、暖かい吐息が、優しいにおいが全てすぐ側にある。ケン一の全てが自分を包み込む感覚に、ハットリは我を忘れそうになる。
 
 しばらくしてふとケン一は身体を離し、ハットリの顔を見つめていった。 
 「僕ね、ハットリ君達が黙って帰っちゃったことすごく怒ってるんだよ?」
 「ケン一氏・・・それは・・・。」
 「僕に直接言わないで行っちゃうなんて。君たちにとって僕はその程度の存在だったのかなって、そう思った。」
 「そのようなことは・・・!むしろ拙者達は・・・!拙者は、ケン一氏を・・・っ。」
 「ううん、いいよ。もう分かったから。ハットリ君は僕の所に戻ってきてくれたから。僕のことちゃんと友だちと思ってくれてたこと、分かったからいいんだ。でも置いてった罰として、ちょっと言っておきたかったんだ。」
 ふふ、といたずらっ子のような笑みを浮かべる。
 そんなケン一を見て、ハットリはたまらない気持ちに陥り、ケン一の身体を力強く抱きしめる。

 「・・・!ハットリ、君?」
 「会いたかった・・・っ。ホントに会いたかったでござるよ・・・。ケン一氏・・・!」
 「ハットリ君・・・。」
 美しい青年に抱かれ、ケン一は少し動悸が高まるのを感じた。
 ハットリは本当に美しく成長している。自分なんか足元に及ばないくらい・・・。
 羨望と、憧憬。そんな感情がケン一の中で生まれた。少年の頃よりももっと強く・・・。


 


 「こんばんはっ!」

 『!!!!』
 二人は突然の声に驚き、慌てて身体を離す。

 声をした方を振り向くと、そこには13、4歳の美少年が居た。
 身長は160cmくらいだろうか。栗色の髪に、大きな瞳。やんちゃそうな雰囲気でいたずらな少年と言った風貌である。
 小柄ではあるが、身体はほっそりとはしておらず、均整のとれた筋肉で包まれていた。

 「シンゾウ!」

 ハットリの驚いた声に、ケン一は突然の侵入者の正体を知った。

 「シン・・・ちゃん?!」

 「ケンちゃん!久しぶり!兄上、僕も来ちゃったよ!」
 
 
 「うわ・・・!久しぶり!!大きくなったね!!」
 感極まり嬉しくて仕方ないといったケン一の様子にハットリはほんの少し胸の痛みを感じた。
 だが、今はそのことよりももっと重要なことを聞かなくては行けない。


 「「来ちゃったよ」ではないでござる!お前はまだ伊賀で修行中の身のはずではないのか?」
 兄の剣幕にやや恐怖を感じながら、シンゾウは答えた。
 「そうだったんだけど、父上が・・・。」
 「何?」

 「父上がね、やっぱり兄上一人じゃ心配だからって、僕にもついていくように言われたの。」
 「父上が・・・?しかし・・・。」
 「信頼してないわけじゃないけど、念のためだって。僕が行ったら、兄上は僕の世話するのに精神を鍛えられるだろうからって。」
 「・・・そうか・・・。」

 何となくがっかりした様子のハットリに、ケン一は声をかける。
 「まあいいじゃない。シンちゃんと一緒に自立したと思いなよ。兄弟でお互いに高めあうためにさ。それに僕もシンちゃんにあえて嬉しいよ。」
 「・・・仕方ないでござるな。シンゾウ。また拙者がしごいてやろう。」
 「あ。はは・・・。お手柔らかに、兄上。」

 シンゾウは笑いながらケン一の姿をかいま見た。
 あの頃より背も伸びてるし、少し大人っぽくなったケン一を。
 そして・・・男にも綺麗に、可愛くなったと思わせるほど魅力的になっていた。

 
 「ところでケンちゃん・・・なんか可愛くなってない?」
 「え?シンちゃん、何か言った?」


 ふと振り向くケン一の笑顔。
 





 「・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・ううん、なんでもないよ。」


 「?そう?」




 捕まってしまった。

 
 
 
 
 
 
To be continued・・・