「煙巻ケムゾウです。よろしく。」 「「ケムマキ君?!」」 ケン一と夢子は同時に声を上げた。 煙巻ケムゾウ。ハットリ達がいた頃、ハットリのライバルとして共に少年の時期を過ごしていた。 ケン一達にとっては時々悪戯を仕掛けてくる、少し気にくわない、だが大切な友人であった。 ハットリの帰還と共にまさか彼まで帰ってくるとは思わなかった。 ケン一と夢子は同様にそう思い、驚きの表情を隠せなかった。 「なんだ三葉と河合は知り合いか?」 「あ・・・はい。」 動揺しつつ答えるケン一。ケムマキはふっと口の端を上げ笑みを作ると教師に答えた。 「ええ、小学生の時の友だちです。久しぶりだねケン一君、夢子さん。」 その微笑みは整った顔立ちを際だて、ハットリとは違う男らしさを見せた。 「ケムマキ君・・・。」 そして休み時間。 待ちかまえたように女子の群がケムマキの周りを瞬く間に囲んでいった。 ケン一は久しぶりにケムマキとつもる話をしたかったし、ハットリが昨日帰ってきていることも伝えておきたかった。 しかしこれ以上ケムマキのことでまで質問責めの対象にされたくはない。そう思い、諦めてその場を離れた。 ケン一は気付いていなかった。 ケムマキがずっとケン一の様子を眺めていたことも。 そして彼が酷薄な笑みを浮かべていたことも・・・。 その日の放課後。 すっかり女子ととけ込んでしまったケムマキを後目に、ケン一は今日彼と話すのは諦めようと帰途につこうとしていた。 (残念だな、せっかくケムマキとも久しぶりに会えたのに・・・。まあいっか。クラスメートになったんだしいくらでも話す機会はあるよな。) そんなことを考えながらケン一はゆっくりと教室を離れた。 (それにしてもケムマキも随分かっこよくなってたなあ。あれじゃこれから女子の関心は全部あいつにいくだろうな。 これでハットリ君のことしつこく聞かれなくていいや。 ・・・夢子ちゃんはどうなんだろ・・・ケムマキも昔から夢子ちゃんのこと好きだったみたいだし・・・夢子ちゃんとられないかな・・・。) 「よう、ケン一君。」 不意に前からかけられた声に、ケン一は驚いて声の主を見た。 「ケムマキ君!」 「久しぶりにあったってのに、挨拶もなしか?冷たいじゃないか。」 「そんな。でもホントに久しぶり!!元気だったみたいだね。君も甲賀から自立してきたの?」 「ああ。ま、そんなところだ。けど、君も。ってことはあいつも帰ってきてるのか。」 「え?あ、うん!ハットリ君も昨日来てくれたところだよ。それにしてもこんなに一度にみんなかえって来てくれるなんて・・・。思わなかったな。」 ケン一はケムマキの方から話しかけてくれたことを嬉しく思った。 ケムマキにとってもケン一達と過ごした時期が少なからず大切なものであったのだと。 「ま、な。あいつはともかくオレはそのつもりで来たから。」 「え?今なんて言った?」 「何でもないよ。それより、ちょっとこの学校の中、案内してくれないか?」 「あ、うん!いいよ。」 「・・・でね、体育館はこっちだよ。ケムマキ君は何か部活する?」 ケムマキは興味なさげに答える。 「やだね。部活なんか行ってたら修行の時間が無くなるだろ。」 「そっか。そうだよねー。ケムマキ君も頑張ってるんだよな。」 「まーな。今じゃ甲賀の若手ナンバー1だぜ?」 「相変わらず自信満々だね。昔はハットリ君に負けてばっかだったのに。」 冗談めかしくケムマキをからかうケン一。その言葉に少し怒ったのか、ケムマキはそっぽ向いて言った。 「うるさいな。今だったら負けねえよ。」 「ほんとに?」 ケン一は笑いながら次の棟に行こうと体育館の裏手にケムマキと共にまわった。 「ああ。」 ふとケムマキの瞳に獰猛な色が混じる。 「ハットリには負けないぜ?どんな手を使ってもな。」 |