狂気の開演  3





「ただいま・・・。」
ケン一はやや覇気のない声で帰宅の言葉を口にした。
ケン一の心の中には夢と片づけても片づけきれない浅ましい-犯された-記憶でいっぱいだった。

「お帰りでござる。ケン一氏。」
「ケンちゃんお帰り!」
真っ先に出迎えてくれたハットリ兄弟の声に、ケン一は気持ちを現実に戻すことができた。
「た・・・ただいまっ!ハットリ君、シンちゃん。」


心配をかけたくなくて、精一杯の作り笑顔。
ケン一は自分でも自己の表情の不自然さを感じずに入られなかった。

「遅かったでござるな。さ、ママ上が食事の用意をしておられるでござる。」
ハットリは何もなかったようににっこりと微笑んだ。
その微笑みと振るまいはケン一の心をふっとやわらげた。


「うん、ありがと。すぐ行くよ。」


ケン一はそのまま部屋へと向かう。



「兄上。」
「ああ。ケン一氏には何かあったようでござるな。」
「わかってるなら早く聞いた方が・・・!」
「シンゾウ。無理に聞き出してケン一氏のためになるとは思えん。」
「・・・っでも・・・。」
「とにかく言うことを聞くのだ。分かったな?」
「・・・はい。」






(うん・・・。大丈夫!)
ケン一は部屋の中で自分を持ち直そうと努力した。
そして夕食は何とか滞りなくすませ、一日を終えようとしていた。


ハットリとシンゾウは夜も特訓に向かうらしく、ケン一は一人部屋でくつろいでいた。
ケン一はケムマキが今日同じクラスに転校してきたことをハットリに告げなくてすみ、ややほっとしていた。
だが、明日には再びケムマキと教室で相まみえることになる。そのことがケン一の頭を悩ませていた。

(明日・・・ケムマキ、来るよな・・・。普通に・・・普通に接しないと、なぁ・・・。)
「ケンちゃん!お風呂があいたわよ。入りなさい。」
「あ、うん。」

(とにかくお風呂に入っておちつこ・・・。)
そう思い、ケン一は脱衣所に向かった。

「・・・・っ・・・・!?」
服を脱ぎ、鏡を見た瞬間ケン一は愕然とした。

そして知ったのだ。
犯された記憶は現実に起こったことなのだと。


肌にいくつも付けられた紅色の跡によって。


『良い声だな』
肌を這う熱い手のひら


『すげー反応』
強く噛みつく唇と歯


『ほら、良いんだろ?さあどうして欲しいんだ?』
自身を翻弄する指



全てが生々しく肌によみがえる。







「うわああああああああああああああ!!!」






イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!!!






「ケン一氏?!」
脱衣所から聞こえてきた引き裂くような悲鳴に、いつ帰宅したのか、ハットリの声がした。


その声にケン一はびくりと身体をふるわす。

「来るな・・・っ!!来ないで・・・・・!!」


「どうしたでござる、ケン一氏!!」
「ケンちゃん?!何があったの?ここを開けなさい!」
「ケン一、どうしたんだ!開けなさい!!」

ハットリの声と共に両親の声も聞こえる。
ケン一はハットリには勿論、親にもこんな自分の姿はみせたくなかった。
いや、たとえ誰であったとしても拒んだだろう。


「来ないで・・・っ!!お願いだから・・・・!!!」

「ケン一氏、入るでござる!」
服部の声が再び聞こえたかと思うと、ドアは音を立てて開いた。
ハットリが忍者道具で鍵を開けたのである。



「ハットリ、くん・・・・」
ケン一は自分の身体を抱きしめたまま、侵入者の姿を呆然と眺めていた。

「ケン一氏・・・!」
ケン一の身体に残る跡を見たとき、ハットリはすぐに状況を判断し、扉を再び閉めた。

「ハットリ君?!」
当然外にいてまだ息子の状態を知ることの出来ない両親は驚いた。
ハットリは答えを返した。
「ケン一氏は、無事でござる。ただちょっと転んだらしくて恥ずかしいから見られたくないようでござるよ。」
「本当・・・なの?だったら閉めなくても・・・。」
「少し傷があるので拙者はケン一氏の手当をするでござる。伊賀の秘密の薬を使うので、ちょっと見せられないでござる。」

ハットリがケン一の両親に説明している間、ケン一はハットリの入ってきたときの姿勢のままぼんやりとしていた。


(・・・夢じゃなかった・・・僕・・・本当にケムマキに・・・っ)
身体のふるえは止まらなかった。



「ケン一氏・・・。」
ハットリの声にケン一はびくりと反応した。

ハットリはその痛々しい姿にたまらない思いになった。
そして大切なケン一をこのような目に遭わせた相手に対する憎しみを強く感じていた。

「ハットリ君・・・。僕・・・。」
「・・・何も言わなくて良い・・・でござるよ・・・。」

ハットリはケン一の側に座るとケン一のふるえる肩をそっと抱こうとした。


しかし、その手はケン一により強く振り払われた。
「触らないで・・・!」
「ケン一氏・・・!」

ケン一の瞳には涙があふれていた。
「僕・・・今日・・・女みたいに・・・っ」
「ケン一氏。」
「押し倒され、て・・・・服を脱がされて、体中・・!!」

「ケン一氏!!」

ハットリは力尽くでケン一の細いからだを抱きしめ口づけた。


触れるだけの口づけを長く・・・長く続けた。


唇を離したときケン一は眠りに入っていた。





 ハットリはケン一が寝入ったあとも彼の身体を手放せないでいた・・・。










 
 
To be continued・・・