上級生の言い分



「くそ〜〜トイレから帰ってきたら誰もいやしねえ。」

十二支高校と華武高校の練習試合が終了し、やや黄昏時にさしかかろうという頃。
本日の試合に出場し、なかなかの活躍(と騒ぎ)をした十二支高校1年、猿野天国は現在もここ、華武高校グラウンドにいた。

理由はちょっと悲しい事に。
着替えが終わり、トイレに一人行っている間に他のメンバーにおいていかれたのである。

天国はそんな寂しい気持ちを紛らわそうと、グラウンドにらくがきして憂さを晴らしていた。


その時。




「コラ猿。何してんだおめーは。」
何か噛み砕きながらのハスキーボイスが天国にかけられた。
振り向くと、そこには華武高校1年、先程の試合でホームランを打った4番打者、御柳芭唐がいた。

「あ〜〜?!誰が猿だ、このバブリシャス!!」
天国はしっかりと御柳の言った「猿」という言葉につっかかっていった。

御柳は内心ほくそえむ。

先程の試合で、良い意味でも悪い意味でもかなり目立った天国を御柳はかなり気に入っていた。
ちょっと(トゲつけて)話しかければ、個人的に「お話」できるであろうと思ってはいたが。
こんなにすぐにチャンスが来るとは思わなかった。

そんなわけで、グラウンドにいる天国に嬉嬉として声をかけに言ったのだ。



「つーか猿っしょ。
 名前、「猿野」っつーんだろ?」
早速覚えた名前を呼ばせてもらう。
残念ながら下の名前は知らなかったので、苗字だが。

「お!猿呼ばわりはムカつくけど、俺の名前覚えたんかよ。
 何かおまえ人の名前とかソッコーで忘れるタイプに見えっけどな。」

「…お前ももう少し遠慮して口開けねーのかよ。」

「人の事言えんのか?」

天国は少し機嫌を取り戻すと、なかなかに濃い毒を吐きかけてくれた。


どうやらこの心の恋人(御柳視点)、意外と鋭く、なおかつきついらしい。


だが、それは更にこの自己中心的快楽主義者のお気に召したようだ。

「マジ、おもしれえじゃねえか、お前。」

御柳は不敵な笑みを浮かべると。
早速口説きモードに入ろうとした。


その時。


「猿野!」

愛し君の名前が別方向より響いた。
すると、そこには真中分けの黒髪に、真面目そうなメガネをかけた男が向かってきていた。


「一宮先輩!」

(先輩?何だよ、十二支のヤツか。)


その男は、御柳を一瞥すると天国に言った。
「お前、まだここにいたのか。
 あんまり遅いから迎えに来たんだ。」
「え〜、置いていったのそっちじゃないっすか。」
「何言ってんだ。
 みんなバス停で待ってるぞ?」

「マジっすか?!
 よかった〜〜、じゃすぐ行きましょ!」
天国は仲間が自分を置いていったのではなく待っていたことを知ると、嬉しそうに笑った。

その笑顔を見て、一宮は少し頬を染める。

「さ、行くぞ。
 御柳だったな。邪魔をした。」
御柳は自分にも律儀に声をかける一宮の礼儀正しさが、猿野との仲を見せ付けている余裕の嫌味にしか見えなかった。



そして御柳はそんな身勝手な気持ちのままに身勝手な事を言い出す。




「何だよてめー。
 今オレが猿野と話してるのわかんなかったのか?」
「は?」
いきなり絡みだした御柳に、一宮は勿論天国も戸惑う。


「邪魔すんじゃねーよ。ヘタレ十二支のくせによ。」
御柳の十二支をバカにした発言に、天国はすぐに苛立つ。

「んだと!?テメ…。」
「よせ。猿野。これ以上揉め事起こすな。」

つっかかろうとした天国を制したのは一宮だった。

「でも、先輩!」
「いいから。」

そう言うと、一宮は御柳の方をまっすぐに向いた。




「御柳。確かにオレはお前ら華武高校の1軍サマから見ればヘタレピッチャーだがな。
 猿野や、ウチの1軍までそうだと思わないで欲しいな。」

「あ?」

「それに。
 猿野は「オレと一緒に」帰ると言っただろ?
 ここは「猿野の」意見を尊重するべきだと思うが?」

「な”ッ…。」

一宮は明らかにある部分を強調する。

(こっ、このヤロー…。)


「猿野の嫌がっている事」をムリにしていきなり「嫌われたい」なら別だがな。」

「くッ…そんなこと…。」

「それに、オレは一応3年で、お前より年上だ。
 高校生の間「くらい」は年上の言う事を聞ける「程度の」度量があるほうが「男として」見れるんじゃないか?」


「…。」


一宮はかーなーり黒い笑みで話をたたみかける。


普段なら御柳もこのくらいの脅迫に屈するようなかわいい男ではなかったし。
人の意志に関係なく自分のしたいことをするくらい何とも思わなかったが。

ここで自分のしたいようにすると
自分が、天国の前で

「度量のない我侭なガキ」呼ばわりされることと同じである。

流石にそれは「カッコ悪い」。


「て…てめえ侮れねえな…。」



「というわけで、帰っていいようだぞ。猿野。」
一宮はにっこりと笑って天国を振り向く。
天国は非常に俺様な御柳を言い負かしてしまった一宮を尊敬の眼差しで眺めていた。

「…一宮先輩、すげー。」



そして、二人は帰宅の徒についた。

さりげなーく天国の背中に手を回すのを忘れずに。




「く…結局下の名前も聞けなかったじゃねえか!!!」



哀れ、御柳。

結局「一介の」ピッチャーに負け、チャンスを逃した「カッコ悪い」男の烙印を押される事となる。



                                                             END



散サマより4000HIT代理リクエスト・「一宮vs御柳→猿野」でした!
なんと一宮くんが勝ってしまいましたよ。(笑)
それにしても…。なんかワケわかんない話ですね…。
散様、ホントに申し訳ありません。
ギャグで、ということでしたが…あんまりギャグじゃないし…。

そんなわけで、ややリクエストとズレのある文です…。
こんなヤツですが、散様、今後もできましたらお見捨てなきようお願いします^^;)

4000HIT代理リク、まことにありがとうございました!!

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