手袋



「主将ってさ、いつも手袋してるんすね。」
「え?ああ…これかい?」

いつも通り牛尾邸での特訓を終え、天国と牛尾は更衣室で着替えていた。
ちなみに獅子川は用があったらしく、今日は来ていない。

そんな時に、天国の質問があがった。


牛尾は、苦笑しながら言った。
「…ちょっとね。なんとなく。」
「へえ。」

濁した言葉に、天国は短く答えた。
それは牛尾にとっては意外な返答だった。

「あれ?聞かないんだね。」
非常にストレートな疑問をぶつけた。
すると、今度は天国が苦笑する。


「聞いて欲しいんすか?」



にこっと笑って。



答えた。


そうか。僕は聞いて欲しくなさそうな顔をしたんだ。


実際に聞かれたくはあまりない話だったけれど。

「…君なら教えてもいいかな。…って言ったら?」


少し悔しいだろう?
僕は君がすきなのに 君は僕を知りたいと思ってくれないなんて




「ん〜。聞いて欲しいって言ったら。」

「…しょってるね。」
本当はそんなことないけれど。
君が少しでも僕に興味を持ってくれるなら。
少しでも君の好奇心を刺激する事が僕に存在するなら。



いっそ聞いて欲しい。



「…聞いて…。」

「欲しい?」


全てを言う前に、天国が言った。

牛尾がそう言うのを最初から知っていたかのように。



なんだか、悔しい。

牛尾はまた、そう思った。


そして、何かを思いつく。




「いや、聞かせるのはもったいないから…。」
そう言うと、牛尾は手元にあったタオルを天国の顔に押し付ける。


「ぶっ、何するんすか?!」

牛尾はそのまま返事をせずにすばやく天国の眼を隠した。


「ちょ、何してるんです?!」

「ん〜。だから、言ってるじゃない。聞かせるのがもったいないから・・・。」
「だからって何で目隠しなんですか!!」


天国の見えない視界で牛尾は手袋をはずす。
「触れさせてあげるよ。」



「え?」


驚いた天国の顔にそっと素手で触れる。




消えない傷のある手で。




「……わかんないですよ。何にも。」

天国は触れられながら、そう答える。


「…そう?」


「そうですよ。触られてるだけじゃ分かりません。」


「…。」



「自分から触んないとね?」

目隠しをした天国が微笑む。
眼は見えないのに、すごく優しい笑顔だと分かる。


…僕はこんなに君が見えるよ?



そんな風に思っていると。



ぺろ




「!!」



天国が牛尾の傷跡に触れる。

自らの舌で。




「な…っ猿野くん・・・?!」
いきなり考えてもいない行動をとられ、牛尾は驚愕を隠せなかった。
すると、天国は一言。



「痛そうな味。」


「!」


「…みたいな感じ?」




「…もう。君って子は…。」


分かっていたんだ。
僕の手袋に隠されていたもの。



君はそれを…。



「かなわない、なあ?」


「え?何か言いました?」


牛尾の小さな呟き。
それは天国に対して一つの降参宣言をしていた。


「ん?なんでもないよ。」

でも、まだ全面降伏はするつもりはない。


「んん…?!!!???」



牛尾は、天国に口付ける。


「な、なんつーことするんですか!!!???」



目隠ししてても、流石にわかったらしい。



「ふふ。宣戦布告だよ?」




牛尾は笑う。



それは生まれて初めての負けてもいいと思う試合の始まり。


                                            end.

無謀な挑戦の開始・・・。


です。


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