ざ・テクニック
「きゃあああ犬飼キュン〜〜〜〜!!!」
「猿野先パ〜〜〜〜〜イ!!!」
「「………。」」
ここ十二支高校野球部では。
最近、黄色い女生徒達の声が急増していた。
理由は今までいた犬飼冥の追っかけに加えて。
猿野天国の中学時代の追っかけもが十二支高校に押しかけることになったからである。
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「待って〜〜〜〜犬飼キュ〜〜〜ンvv」
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど…
「猿野せんぱあああああああいvvv」
だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ
今日も野球部終了後、2方向に多人数の走る騒音が分かれていった。
「…まさか猿野くんがあんなにモテてたとは思わなかったッすね…。」
「全くです。犬飼クンの追っかけと良い勝負ですよ。」
「けど兄ちゃんたち、あれでちゃんと家に帰れるのかな?」
「まあ大丈夫だろ。
天国のヤツは久しぶりだからきょどってるがあれで3年間追っかけに耐えてきたんだし。」
「あっ、沢松くん。」
「おや?いいのですか?猿野くんをほうっておいても。」
「まあアレじゃ構いようもねえしな。
その点じゃあんたも変わらないだろ?」
「…確かに。」
沢松と辰羅川は似たような表情で、相棒の走り去った方向を各々に見ていた。
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さて、別方向に走り去ったはずの二人だが。
現在、なぜか並んで追っかけから逃走していた。
とちゅうから天国の列が犬飼の方に近づいてきたのである。
「「「きゃあああああああああああ」」」」」
ちなみに、すでに追っかけ連中の叫び声は全く意味を成していなかった。
「猿、てめえなんでここに…。」
「文句言ってる場合じゃねえだろ!
ちょっと協力しろ!!」
そう言うと、天国は犬飼の腕を掴み、校門の前で反転して立ち止まる。
「な?!」
追っかけの前で止まるなんて何考えてやがる、と口を開こうとすると。
天国は標的の前に立ち止まる女生徒達に視線をやりながら、一言犬飼に言った。
そして。
天国は自分のファンに向かって言った。
「悪いんだけど、今日は彼と二人で帰る約束なんだ。
君たちなら分かってくれるよね?」
最上級の微笑とともについてきたセリフ。
天国のファンたちは声をそろえて言った。
「はいvvv」
そのセリフに、今度は犬飼の追っかけ隊が驚く。
「ちょっと猿野?あんた何を…。」
「…おい。」
「え?」
天国につっかかりかけた追っかけ隊に口を挟んだのは、犬飼冥本人。
「邪魔しないでくれ。」
「…はい…v」
追っかけ隊はめったに聞けない犬飼からの直接の自分たちへのセリフに、
歓喜のあまり呆然としてその場に立ち止まった。
そしてその間に天国と犬飼はそそくさとその場を退散した。
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「…とりあえず、サンキュな。」
「ああ?どーいたしまして。」
犬飼は帰途の折、天国に礼を言った。
天国は、犬飼に「彼女たちの顔を見て「邪魔しないでくれ」っていますぐ言え!」とささやいていたのだ。
犬飼は混乱の中わけも分からず天国の言うとおりにすると。
あっさりと彼女たちは自分を解放してくれたのだ。
「…お前、意外と慣れてるな。あーいうの…。」
「お前がきょどりすぎてんだろうが。
ああいう子は自分たちの理想のイメージ通りvの相手に
直接頼まれたりすると一瞬我忘れるからな。その隙に逃げるんだよ。
これ、レッスン1な。」
くすっとおかしそうに笑う天国は、犬飼を嫌な気分にさせるものではなかった。
少し アノヒトみたいで。
「…他にどんなんがあるんだ?」
だから、素直に天国にに教えてもらうことに。
違和感はなかったみたいで。
「?珍しいな〜〜。スナオじゃん。
まあいっけど。
他には…。」
天国は一瞬不思議に思ったが。
今は犬飼と普通に話してもいいかと思い。
ケンカの種はいつもみたいに故意にまかれることもなくて。
二人にとっての新しい時間がひとつ始まった。
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その後。
「逃げるな!!そこで正面向け!!」
「簡単に言うんじゃねえ!!」
一段と「仲良くなった」二人の姿がよく見られることとなる。
end