「で、その噂は本当なのかい?!梅星君!」
「ええ!まちがいありませんわ。うちのバカ松がこちらの猿野君と相談していたのをばっちりチェックいたしましたもの!(興奮)」
A word to someone 〜誰かへの言葉〜
「へーっ兄ちゃんが文化祭でライブやるって?!」
「サプライズですね。そんなこと猿野君一言もおっしゃってなかったのに。」
「…とりあえず、歌えるのか?あいつ。」
「HAHHA〜N、意外と照れてるんじゃねーのKa?」
「けど興味あるばい。」
「ッたく、猿野の奴ラッイバルのオレを差し置いて。ここは一発オレも…。」
「やめろ文。お前がやると学校が壊れる。」
「なッんだと?一志、オッレを誰だと思ってやがる。」
「十二支のジャイ○ンって呼ばれてたよな?」
「それにしても、猿野は何を歌うつもりなのだ?」
数々の推測が流れるなか、噂の文化祭は近づいてくるのであった。
十二支高校文化祭。
公立の高校にしては珍しく初夏である6月に行い、例年盛り上がりを見せる宴の一つであった。
その一つに、講堂で行われる演劇や、合奏、ライブなどがある。
十二支は野球部に代表されるように、名門と称すべき部がいくつかあり、演劇部や吹奏楽部、軽音部もそれに含まれていた。
また部活動のみならず、雄志による演し物も毎年いくつか見られている。
その一つとして、1年猿野天国が親友沢松健吾と共にライブを行うという情報が入ってきたのだ。
猿野天国、いわずと知れた野球部1年生で、野球部のアイドルである。
その彼がまだ聴いたことのない歌を披露してくれるという。
それを聞きたくないという方がウソである。
と、言うわけで。
騒動の予感を多くもたらしながらも、文化祭は刻々と近づいてくるのであった。
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『ただいまより、雄志によるバンド演奏を行います。曲目は1ーB猿野天国、沢松健吾による・・・』
「ああ、急がなければいけないね。」
野球部の面々が講堂に向かう時、
「講堂はこっちか?」
「みたいですね〜。」
「早く行かないと始まる気ですよ〜。(>o<)/」
「少し走りング…。」
「……。」
「アレは…。」
「…とりあえず…。」
「「なんで(貴様)(君)がここにいるんだ!!???」」
「ん?フン、牛尾か。」
「負け犬に用があったわけじゃねーよ。」
「てめえ…。」
とまあ、全員そろったようである。
「…無事に済んだらいいっすね…。」
遠い眼でつぶやく人が約1名…。
「おーい、あんちゃん、はじまるみたいやで〜。」
「あ、はい!・・・って、黒豹さん、いつの間に.…。」
そんなこんなで、爽やかならぬ高校球児たちは講堂に仲良く(?)入っていくことになった。
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「あ〜楽しみ!!兄ちゃん、どんな歌うたうんだろう!!」
「……。(こくこく)」
「とりあえず…静かにしとけ。」
犬飼ははしゃぐ同級生を珍しくしっかり諌める。
すると、講堂の明かりが次々と消えて、暗幕が上がっていく。
そして、やや左手にスポットライトが当たる。
沢松だ。
エレキを手に、いつものオールバックを少し乱してややワイルドに見せている。
黒いシャツに黒いレザーパンツで黒一色だが、なかなかに決まっている。
『ども、皆さんこんにちはっ。大体の人初めまして〜。1−B、沢松です。
今日はオレのすばらしい演奏を聴きにきてくださり、まことに・・・。『って、勝手に始めてんじゃねえ!』
横からツッコミが入った。
それと共に、歓声がひびく。
天国だった。
天国にスポットが当たった。
「兄ちゃん…かっこいい・・・!」
天国は黒のハイネックにシンプルなシルバーのクルスをかけ、細身のヒップハンガーに腕に3種ずつこれもシルバーアクセをつけていた。
二人とも実にシンプルなファッションだったが。
特に天国は、なんともいえない艶をかもし出していた。
『こんにちは〜!!1−B、通称 野球部期待の星、またの名をなぞの美少女、猿野天国ですっ!』
『どこが期待の星だ、この自信過剰と自意識過剰の見本市!』
舞台上でいつもの漫才が始まる。
流石に年季の入ったボケとツッコミは、会場にはかなり受けていた。
『あ〜、脇役の雑音はほっといて。今日はマジで聞きにきてくれてありがとう!』
『な〜んか引っかかる言葉で閉められたが、時間の無駄だ。いきなり1曲目行ってみよう!!』
『おっしゃ〜んじゃ「GLAYで「サバイバル」行くぜ!!』
沢松のエレキが鳴った。
素人でも、かなりの腕前である事が分かる。
『声高に時代はサバイバルだとコメンテーター不吉な予想図立てて闇にまくしたて』
天国の声が講堂を響く。
余裕のある声量で、声もよく、はっきりいって上手い。
『鏡には昨日のヘマをなじる顔がある一日を迷走するアチラコチラボクラ』
テンポのよい曲に天国の声がしっかり合っていて、講堂がノリ始めているのが分かる。
『世間の波に泳ぎつかれて ちょっと皮肉な舌を出しても
そのあり余るバイタリティーで平成の世を駆ける君よ!』
そして天国は観客に向かって指を鳴らし、アピールした。
『どこまでも広がる空に光がさして 地球の最後の日になって欲望のタガが外れたら アダムとイヴになれる
タフにこの世を生きる為に 必要なもの ちょっとぐらいの絶望も長い目で見りゃ極上のスパイスを味わえる oh yes』
見事だった。
この曲はサビの部分の詞がとにかく速い。
それを天国は難なく歌いきってしまった。
観客は大満足である。
「うッそ、あの子かっこいい〜!!」
「1−Bの猿野くんだっけ?すごいじゃない!!あたしチェックしとこっかなあ!!」
「すっごいっすよ!!猿野くん!!」
「やるNa〜!」
野球部員たちも歓声をとどろかした。
『うわ〜、すっごい歓声もらっちゃった。うっれしいV』
『ほらほら、バカやってねえで次行くぞ。ノリをこわしちゃプロじゃねえな。』
『そう、沢松の死の追悼曲が1億枚のセールスを…。
『勝手に殺すなアホ!!』
『では、次の曲に。
これは、え〜ちょっと個人的だけど、最近オレバカやって。
友達とか、仲間とかにすげー迷惑かけたことがあったんです。
そんなバカやったオレを、皆…今また受け入れてくれて。
それがすげー嬉しくて。』
「…猿野くん…。」
「猿野・・・。」
野球部の面々は天国が言わんとすることが良く分かった。
以前あった、退部騒ぎのことだ。
あの時は、大事な仲間であり、そして大切な想いを手向けるものを喪失してしまった気持ちで、全員が辛い思いをした。
天国はそれから程なく戻ってきたが。
それでも、一時は皆を裏切ってしまったと天国は今も罪悪感を感じている。
他の者からすれば、戻ってきてくれただけでも嬉しかったのだが。
『オレのそん時の心情っつーか。そういうの似てるって思った曲です。
人の歌で自分の気持ち表すのもどうかなとか思いますけど、ちょっと許してもらって。
ロンドンブーツ1号2号で、「勝」』
ちょっとゆっくりしたテンポの曲が始まった。
天国は歌いだす。
『積み上げる自分の高さは 誰にも決められない
込み上げる自分の弱さは 誰にも見せられない
ああ ただ 負けたくないその気持ちで
ああ いま 進むよ
人の目には どっちに映っても
少し 前の 自分に勝てたよ』
天国はあのときの悔しさを、恥ずかしさを、情けなさを、そして戻って来たいと思ってた気持ちを歌った。
『くり返す小さな過ち いらだつ弱い心
ふりかかる大きな重圧 沸き立つ強い心
ああ いま
満たされてく体中に
ああ 解き 放つよ
NO NO NO NO NO
NO NO NO NO
NO
あふれ出る勇気と力で
後退はしたくない
今までの悔しさぶつけて 最後には勝つ』
曲を終えると、再び歓声が響いた。
天国はこの曲を終えた後、深々と一礼した。
「…君の気持ち、しっかり受け止めたよ。猿野くん。」
牛尾は優しい笑みを浮かべ、そう呟いた。
『えー、私事でしんみりしちゃったとこですみませんが、最後の曲です。』
ええ〜っと会場が響く。
『だから言っただろ?構成が変だって!しんみりしちゃってるとこで終わらせてどーするんだよ。』
『だって〜。きっと優しい皆さんなら、許してくれるかなって。ね、どう?』
「ゆるさな〜い」
という返事が講堂に響いた。
『ああっでも時間制限が〜〜社会の歯車にはかなわない!』
『アホ。』
『でもまあ、次もつまってることだし、今日はこの辺で。』
「え〜〜〜」
『最後がんばるから、許して?』
と、天国は物凄く可愛い笑顔を向けた。
「・・・・・・。」
講堂が沈黙に支配される。
(…可愛い…!!!×∞)
『では、沈黙を肯定ととって最後の曲、いきます。
ジャンヌダルクで、「Rainy〜愛の調べ〜」』
しっとりとした音が、空間に響いた。
『君との 想い出だけは 一つも 雨に流れない
短すぎた季節の中でまだ君が笑ってる
二人で 輝きながら
確かな 愛を育てたよね
最後の言葉になるけれど 捧げたい この唄を・・・。』
それは切ない別れの曲。
天国は最大級の切なく美しい声と表情で歌い上げる。
『降りだした雨に濡れ 街を歩いた ゆきかう人々は 誰も忙しそう
びしょ濡れの背中まで 泣いてるみたい? 一人にしておいて・・・もうすぐ寒い冬が終わる』
誰もが例外なくうっとりと聞き入っていた。
するとふっと極が途切れる。
次の瞬間 天国の声だけがその場を支配した。
『このまま 時間を止めて
悲しみ 涙 枯れるまで
もう一度 今心の声を 愛の調べに乗せて・・・・。』
再び曲が流れ出す。
『君との 想い出だけは 一つも 雨は流さない
短すぎた季節の中で まだ君が笑ってる
どれだけ 記憶辿っても
どれだけ 時間が過ぎても
こんなに 忘れられないくらい 愛したのは君だけ・・・・・。
二人で 輝きながら
確かな 愛を育てたよね
広がる 雨上がりの空に 僕の明日が見えた・・・。』
静かに、曲が終わった。
次の瞬間、講堂は割れるような歓声に包まれた。
『皆さん、最後まで聞いてくれてありがとーー!!』
最高の笑顔とともに、天国は舞台袖に姿を消した。
「かっこいい〜〜〜!!文句ないよ、あの子!!」
「すっごい面白いし、可愛いし〜〜!!」
「やだ、あたしぜったいアタックする!!」
「 野球部って言ってたよね!!今度絶対見に行っちゃお〜〜!!」
「あいつ、すげーな!!」
「うん、マジうまかったし。あんま期待してなかったけど最高じゃん!!」
「それにさ〜男になんだけど、何かむっちゃ可愛くねえ?」
「だよな!?オレもそう思った!!」
男子も女子も大騒ぎである。
野球部の面々も、あまりの美しさに感動していた。
「すごかったっすよ!!猿野くん!!」
「ええ、ベリーナイスですね。すばらしい。」
「兄ちゃんてばすっごくかっこよかったし、もうあの笑顔可愛いかったし〜!!」
「とりあえず…よかったな。」
「・・・!!(こくこくこく)」
「モンキーベイベー、最高だったZe!!」
「まったくばい。あんなに綺麗とは思ってなかったと。」
「ふふ…また新しい魅力が発見できたね。」
「我は曲はわからぬが…心地よいものだった也。」
「…綺麗だったのだ…。」
「だな。猿野もああやってれば…。」
「バッカ、猿野はいつもかッわいいぜ!」
「がああああ。」
「最高じゃん…絶対オレのもんにする。」
「御柳、貴様1年の分際で何を言っている。猿野はオレのものだ。」
「屑桐先輩、根拠のない自信はよくなさ気〜。(>0 ・)b」
「…綺麗ング…。」
そして、天国争奪戦はその翌日から熱と競争率を大幅に上げて始まるのであった。
おまけ
「天国、あの人に今日歌うって言ったのか?」
「言うわけねーだろ。」
「絶対「それで?」とか言うに決まってるじゃん。
それに、別れの曲とか歌うし…別れんの絶対やだから。」
「あっそ。」 END
歌詞引用・無料歌詞検索サイト「歌ネット」様
3ヶ月以上遅れました、キリリク小説です。
匹さま、ほんっとうに申し訳ありませんでした!!
選曲は…好みと、教えてもらったお猿ソングで。
ライブとか行った事ないので雰囲気とかは想像です。
全然違う!と言われても…仕方ないと思いますので、ご了承頂けると幸いです。
ではでは。(脱兎)
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