「ねえ、猿野君。どうしていつもあんな風にするの?」
「嫌ですか?」
「ううん、カッコいい猿野君をとられたくないもん。」
「可愛いっすね、先輩。」
「猿野君…。」
夕暮れの図書室で
学校でも1.2を争う美人とキスしてたのは
いつも喧しいウチの後輩だった。
Both sides
「柿枝先輩?どうしたんですか?」
「あ…ああ、なんでもないさ。」
(凪…。)
柿枝鶫は可愛い後輩を見て、昨日見た光景を思い浮かべた。
あいつ、凪が好きなんじゃなかったのか?
部活後、本を返しに行った図書室で。
この後輩を好きだといって憚らないあのバカが。
下級生からは勿論、同級生からも聖母的存在とされている宮埼真理亜とキスしてた。
その光景は、まさしく絵のように美しくて。
真理亜とキスする天国も別人のように綺麗で、凛々しい表情をしていた。
(あいつ…凪の事をからかってんじゃないだろうな。だとしたら…。)
許せない、と思った。
天国は気づいていないのかもしれないが、凪は天国に惹かれているのだ。
凪は、いつだって他の誰でもない、天国だけを見ているのに。
(ごちゃごちゃ考えててもしゃーないな。直談判といくか。)
そう思うと、柿枝の行動は早かった。
昼休みに屋上に来るように子津に伝言を頼み、いつも通りマネージャー業に専念した。
そして、昼休み。
「あの〜、何の用っすか?姐さん先輩。」
(ンな呼び方してたのか…。)
ひょこひょこと上がってきた天国は、いつも野球部で見る天国だった。
あまり面識のない先輩マネに呼び出された理由がわからず、戸惑っているように見えた。
「猿野、単刀直入に聞くよ。あんた凪の事がホントに好きなのか?」
柿枝は前置きもなく聞いた。
その事に天国は驚き、戸惑いながらも答えた。
「す…好きっすよ…?野球部入ったんも凪さんのために…。」
それはいつもの天国らしい答えだった。
だが、今の柿枝にはその答えで納得する事など出来なかった。
「だったら何で昨日宮埼とキスしてたんだ?」
「……。」
天国の表情が変わる。
「…なんの事っすか?」
「しらばっくれても無駄だよ。昨日あたしが見たんだからね?」
「そっか、見たんですか。」
天国はふっとため息をつくと、いつもと全く違う表情を見せた。
静かな…自信に満ちたような、落ち着いた顔。
「じゃあ言い逃れできませんね。…そうです、キスしてましたよ。」
「猿野…宮埼とは…付き合ってるのか?」
「付き合ってますよ。ついでに言うとカラダの関係もあります。」
露骨な表現に、柿枝は顔を赤らめる。
そこまで考えてなかった。
「な…っ。じゃあ、あんた凪の事は…。」
「好きです。その事で嘘をついちゃいませんよ。」
「じゃあ、宮埼は遊びだって言うのか?!」
こいつが、女をそんな風に言うなんて信じられない。
とんでもないことばかりするが、フェミニストだと思っていたのに。
女を玩具にするような男では絶対にないと思っていたのに。
柿枝の激昂する様子に圧倒される事もなく、天国はもう一度短く息を吐き出した。
「だったらいいんですけどね・・・。」
「・・・どういうことだよ?」