『お勉強しましょ。』 



「引っ捕らえろーっ!!」

いつも通り授業をサボって自分の場所でくつろいでいたときに突然の宿敵の声。
明稜四天王・半屋工は驚いて反論するひまも無く…網の中のおサルさん。(ごめんなさい)

そのまま自分の教室に強制的に連れられ、授業を受けさせられた。
(あの状態でまともに受けられたかは謎だが。)

あまりの扱いに当然のごとくぶち切れた半屋は,休み時間に遠く離れた普通科、宿敵の居場所まで赴いた。

が・・・。

「引っ捕らえろーっ!!」

バサッと音がして再び網の中。

「ほ…捕獲成功!!」
その時に聞きたかった声を聞いた気がした…が。

「おい!!何しやがんだコラ!!」
「よしっ連行しろ!!」
そんなこと気にしてるまもなく誘拐された。

気がついたら宿敵・明稜帝梧桐勢十郎の本拠地,生徒会室。
そして…半屋がひそか想いを寄せている生徒会書記の青木速太がいる場所。

周りを見るとそこに生徒会メンバーだけでなくほかの四天王や、最近来た変人・クロ助もいる。

「授業が終わったらみっちり補習!!教師の代わりにその道のエキスパート共をそろえさせた!」
「あ?」

「ボクは英語ならまかせてよ」
「僕は国語とかが…」
「僕は一応機械や物理が得意です」
「私は数学」
「俺化学くらいしか得意じゃないんだけどいいのかな」
「俺はどちらかといえば家庭科だ」
「わたし踊りとか音楽とかーっ」
「オレはポルトガル語が話せるぞ」

「なんなんだよこいつらは!!」

ここまできてやっとこの異常事態の説明をされた。
半屋の出席日数や、単位が足りなくなりそうなこと。
留年の危機に立たされていることを、半屋の担任教師で、義兄でもある真木が梧桐に伝えたことが原因だった。
それを聞いた梧桐が例によって首を突っ込んできたのである。

(だからってここまでするか?!)
原因はわかったものの、あまりの扱いに半屋は怒りに震えていた。

その様子を見た梧桐は、にやりと笑みを浮かべて速太に言った。
「では手始めに国語からいくか。青木,準備はできているな?」
「え、僕からですか?!」

(なに?!)
梧桐の声に反応して半屋は顔を上げた。
そう。ここには半屋の想い人、生徒会書記の青木速太がいるのだ。
さっきまで怒りでわれを忘れていた半屋だったが、速太の一言で正気を取り戻した。
まこと、恋情とは怒りよりも強いものである。(なんのこっちゃ)
 
「えっと…じゃあはじめましょうか。半屋さん、現代文と古文どっちからしますか?」
速太はおずおずと半屋を見上げ、質問する。
その様子のあまりのかわいらしさに、見上げられた方は卒倒しかねないほど興奮していた。

(くっ…可愛い…。)

そんな二人の容姿に,周りの男性陣はそれぞれの思いにかられていた。

(速太君…。そんな可愛い顔して…。男だったら押し倒したくなるぢゃないかっっ!)
(…今度青木君が僕をあんな顔で見てくれるような発明を…。)
(半屋君…。俺の青木君にそんなに近寄らないで欲しいな…。やはり一度決着を…。)
(…可憐だ。)
(あらーv青木君て意外と可愛いのねvあたしには負けるけどv)
(あいつ確か速太とかいったよなー。今度オレの飯わけてやろっかなv)

十人十色と言う言葉があるが、この5人(一名は除く)の思考の行き着く先はほぼ同じらしい。

と、言うわけで半屋は速太と二人っきりで顔を突き合わせ、国語の勉強をすることになった。 
(他のメンバーは勉強の邪魔だからと梧桐に追い出された。)

今は現代文、夏目漱石の「こころ」の勉強中である。

「…で,主人公はKを出し抜いてお嬢さんにプロポーズしたんです。
ここの主人公の心境が問題になってるんですけど、半屋さんはどう思いますか?」
「んなもん、その女が欲しかったからに決まってんじゃねーか。」

あくまで自分本意の考え方で、身もフタも無い答えを返す半屋に、速太は苦笑する。
「…まあそれもあったんでしょうけど,それだけじゃないんです。主人公のKに対するコンプレックスとかが問題になってるんです。」
「…めんどくせーな。だいたい女なんて早いもん勝ちだろうが。何でいちいち敵のこと気にしなきゃいけねーんだよ。」
「だから、Kと主人公は親友なんであって、それを裏切ってしまったんです。それにはお嬢さんに対する愛情もなんですけど、Kのことも意識してたんですよ。Kにはとられたくない、どんな卑怯な手を使ってもKに勝ちたいっていう気持ちがあって…。これは主人公がKにいつも劣等感を持っていたことが原因なんですよね。」
 
速太の説明になんとなく耳を傾けていた半屋だったが,聞いてイツ内にどこか主人公が自分と似ているような気がしてきた。
梧桐に対して、常に反発と劣等感を感じ、いつも勝ちたいと願っている自分に。

「でもこれって、お嬢さんに対して失礼かもしれませんね。そんなことのために利用されて。このことはあんまり触れられていないんで,関係無いと思いますけど。」

あはは、と無邪気に自分の感想まで述べる速太に、半屋はいたたまれない思いを感じた。

オレも梧桐に勝つために青木を利用しているのか?
いや,んなことあるわけねぇ。オレはマジでこいつの事が…。

難しい顔で考え始めた半屋だったが、そんな半屋に気付くでもなく、速太は言葉を続ける。

「半屋さんだったら,打ち明けられた時点で『オレも好きなんだよ!』って反論するかもしれませんね。」
「はぁ?!」

その言葉に半屋は自分の気持ちが見透かされているような気がして,驚いて速太を見た。
速太は半屋の反応に、驚いたような、少し怖がっているような顔をしていた。

「あの、半屋さん、怒ったんですか?」
怯えたように聞く速太を見て、今度は半屋が苦笑した。

速太はごく素直に半屋のことを評したのだ。
しかもかなり正確に。

速太の言葉は、半屋の心の重みを一掃した。

「怒ってねぇよ。」
そう言うと,半屋は速太に微笑みかけた。
その表情は速太はもちろん,梧桐や他の人間も見たことは無い者だった。

(半屋さんって…こんな顔もできるんだ。)
初めて見る半屋の微笑みに、速太は驚き、そして胸の高鳴りを感じた。

(やっぱりこうやって見ると半屋さんってかっこいいんだな…。)

「…なにじろじろ見てんだよ。続き、やんねーのか?」
速太に凝視されて恥ずかしくなってきたのか、半屋はぶっきらぼうに言った。
「あ、はい!!」
あたふたと教科書を見なおす速太。

この時間は半屋と速太、二人にちょっとした変化をもたらしたようである。


そして生徒会室の前では・・・。 

「半屋(君)…。青木(君)(速太君)に何かしたら…。」

そのほかのエキスパート達が自分の授業が始まるのを今か今かと待ち構えていたのだった。


追記 
半屋の追試は何とか間に合い、単位の方も無事だった。
その中でも国語の成績はかなり良く、教員達を驚かせたらしい。


end.




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