強く儚い者たち
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「猿野君…好きです。」
天国が生まれて初めて愛の告白を受けたのは中学1年生の初夏。
可愛くて面倒見が良い、と双子の姉から聞いていた一つ年上の先輩だった。
「あの…僕を、ですか?」
天国は初めての経験に戸惑いを隠せなかった。
まだ恋や愛には関わりの薄い年齢。
…つい先日姉と幼馴染が付き合うようになったことを除いては。
そしてそのたった一つの関わりは、天国の中に大きな存在感をもたらしていたが。
「うん、あの…猿野君、私のこと知らないと思うけど…。
お姉さんと、同じ委員会で…。」
「あ、知らないってワケじゃ…。
えっと、豊川先輩でしょ?明美から聞いた事あります。」
「あ…、そう、なんだ。」
動揺しながら、自分の気持ちを伝えようとする美亜の様子は、天国にとって悪い気を持たせるような事はなかった。
そして、目の前の少女を一人の女性として認識した。
彼女が女性として自分を想っていくれている事を。
その事を天国は正直に嬉しいと思った。
「あの、豊川先輩。…僕、何か嬉しいです。そう言ってもらえて。」
「え…。」
天国の素直な言葉に、美亜は顔を赤らめる。
「あ…あの、それでね。私と…付き合って欲しいなって…思うんだけど。」
「あ…え?」
付き合う。
目の前にいる、この人と。
明美と無涯のように?
「はい。」
天国は口にした後で、それが肯定の言葉であると気がついた。
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「付き合うって…、豊川先輩と?!」
「うん…何か、そうなったみたい。」
「お前な…何他人事みたいに言ってんだよ。」
沢松健吾は、親友からの言葉に心底驚いていた。
美亜が天国を呼びに来た時から、おそらく告白であろうことは踏んでいたが。
まさか天国が交際に応じるとは。
「なあ、天国。…マジでいいのかよ?豊川先輩が好きとかじゃねーだろ?」
「ん…。でも凄く良いカンジの人だったし。」
「あのな…。」
案の定、天国は恋愛とは程遠い位置にいた。
最も、何故天国が豊川の告白に応じたのかは、薄々気づいてはいたが。
「天国…お前さ。」
「何?」
それでも。
天国があの二人に依存するよりはいいのかもしれないと。
沢松はその時、そう思っていた。
明美と屑桐が恋人として付き合い始めてから一週間後のことだった。
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「やっほ。無涯。」
「明美。」
恋人同士となって2週間。
明美と屑桐は二人で会う事が確かに多くなっていたが、実質は今までとあまり変わらない関係が続いていた。
最も、お互いに気心は知れているしムリをする必要はない間柄だったので。
息苦しさとは無縁であったが。
「おーお、相変わらず傷だらけねえ。練習のほかにまたいらないケンカ買ったんじゃないの?」
「…うるさいぞ。」
「図星?ったく、無意識に周りにプレッシャーかけてるんだから世話ないわね。
もーちょっと愛想覚えなさいよ?最近は男にも愛嬌ってモンが必要な時代なんだからね。」
「お前は男より度胸あるしな。」
「むか。」
今までと変わらず、遠慮のない、しかし嫌味のない物言い。
屑桐にここまでいえるのは明美ぐらいであろう。
屑桐の両親でさえ、そう思っていた。
そんなことを考えていたときに。
「天国…。」
明美の一言がひびく。
屑桐も反射的に前を見た。
そこには。
認めたくない光景があった。
天国と もう一人の。
To be Continued…