強く儚い者たち

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「今日はあの十二支とかよ。」
「ったく懲りない野郎共だ。直接戦わねェとわかんねェようだな。」


十二支高校と華武高校の練習試合の日が来た。
華武のチームメイトたちは十二支との試合に当然ではあるが関心は殆どないといって良かった。

それは確信に近い自信であった。
そして決して間違いとはいえないほどの実力を、華武高の一軍メンバーは身につけていたのだった。

屑桐にとってもそれは同じであったが。
屑桐が他の連中とたった一つ違うのは、彼らとは比べ物にならないほどの想いをこの日に寄せていたことだった。

それは試合ではなく。
今日この場に姿を見せるたった一人の存在に。



ふとそんな事を思っていると。
見慣れない人影が前を通った。

いや、一人は屑桐にとっては微かに覚えがあった。
十二支高のキャッチャーである。


二人は、屑桐の後輩、御柳に用があったようだ。
彼らは(というか長身の色黒の少年だけ)ひと悶着を起こしたようだったが。
屑桐の気持ちは一つの事にむいていた。

十二支の連中が来ている。



天国が 来ている。




「ちょっと、屑桐さん?!」



呼び止める声を全く気にも留めずに、屑桐はその場を走り去っていった。
目的の場所は、決まっていた。



#############

「天国…っ!」

「!!!」

天国は、その時丁度一人で水のみ場の近くに来ていた。
屑桐は十二支のいる(つまり3塁側)ベンチに向かっていたが、その途中一人いる天国を見つけたのだった。

「話がある。」
屑桐の声には、有無を言わさない響きがこめられていた。
しかし、天国の頑なな心にヒビを入れることはかなわなかった。

「…オレにはない。」

予想していた通りの、切り捨てる返答。
先日までの屑桐であれば、引く事しか出来なかっただろう。

だが。

はっきりと分かった今は。

引く事は出来なかった。


天国は言葉を続けた。
「もうアンタには…会わないって決めてた。」

「では何故野球部に入った?」



「!!!」


天国の表情が驚愕と恐れの色に染まり始める。

それは頑なな心に出来た隙間。

もう、逃がす事はできない。


「オレとの繋がりを断つ気だったなら、何故野球を始めたんだ!!
 オレを忘れるなら何故?!」

 本当に忘れたかったのなら。


「……!」
天国の身体は細かく震えていた。

近寄らないで 

そう訴えるように。

天国は小さく答えた。
「好きな…人が…甲子園に…っ」
それは…自分の安らぎとも言える少女のこと。

小さくあたたかな想いを与えてくれた少女。

きっかけは 彼女だと 信じたかった

「好きな人…だと?」
聞き捨てることのできない天国の言葉に、屑桐は大きく反応する。
天国は答えを続けた。
「女子マネージャーの…人だ。その人のために始めたんだ。
 アンタのためなんかじゃ…っ!」
「天国。」


屑桐の声のトーンが下がる。
天国は顔を上げた。


「天国。今日の試合…華武に勝つつもりで来たのか?」
「…っ当然だ!!」

天国は屑桐の言葉に負けん気を引き出され、即答した。
今の屑桐は、確かに自分を…プレイヤーとしての自分を見下げた発言をしたのだ。

それは無理もないことだったが。

そして、屑桐は言った。



「分かった。
 負けたら…あの場所へ来い。」

屑桐の口から出た言葉は、条件の提示。

賭けと言ってもよかった。

「な…そんなこと約束する義理は…!」
「こなければその女がどうなっても知らんぞ。」


「!!!!」


信じられない言葉。

天国は呆然とした。

だが、受けないわけにはいかないようだ。
そう言った屑桐の眼は、天国の良く知る…本気の瞳だったのだ。


それだけ言うと、屑桐は天国から背を向けた。


「無涯…何でそこまで?」
ふと俯くと、天国は呟いた。



屑桐は、背を向けたまま言った。

「もう間違いたくないからだ。」




今度こそ 心のままに お前を求める


お前が消えてしまわないように


これ以上失わないように



もう二度と離したくないから



                              To be Continued…



 もどってきました現在編!!
 なりふり構わなくなってきた屑桐さんと振り回されそうな天国。
 二人の想いは試合でどのように交差していくか!!

 …今回あんまりあとがき書く気力ないかも。
 あはは〜。
 と、言うわけで挨拶もそこそこに今回はこの辺で。

      
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