僕はこの夢で最後のウソをつく



氷の城…ここは二人の楽園だ。
愛する者がいて彼を愛する永遠の時間がある。


愛してる。狂おしいほどに。
お前がいることが永遠の幸福だ。

神の眼の届かぬ酷寒の地で、私たちの愛はただ存在する。


愛してる。離さない。永遠に私だけのものだ。
万の言葉も億の言葉もいくらでもお前に捧げよう。

どうかこのままで…永遠に共に。



「ずっと…傍に…。」


#####


「…っ!!」

「ああ、やっと起きたね…って、どうしたんだい?
 顔色が…。」

肩をはずませて息を切らす彼の顔は真っ青だった。
そして…あの王女を失った時と同じように彼は…。

「…あ…。」


「…どうしたんだ?泣いて…。」


僕は彼の顔を覗き込んだ。
何筋かの涙…そして驚いたような顔。


だが、もうひとつ。


彼は僕を見ていなかった。


「…あの時…あの時…俺は……!」


「ヴァン・ヘルシング?」


彼の様子は明らかにおかしかった。


「約束…した?あの時、俺は…。」


「ヴァン・ヘルシング?!どうしたんだ?!
 何か思い出したのか?!」


僕は必死で彼に言った。


「俺は……わ…たしは…約束したんだ…。
 あれは…夢…いや…私は…っ…!」


「ヘルシング?!」


表情がいつもと違う。
僕は彼のこんな顔を見たことはなかった。


「落ち着くんだ、ヴァン・ヘルシング!」


しかし、彼を制止しようとした僕の腕は振り払われる。


「私は…殺した…。
 ヴラディスラウス……殺したんだ…。」


「ヘルシング…?!」


彼は搾り出すように言葉をつむぐ。


だが、彼の言った名前に僕は聞き覚えがなかった。

誰のことだろう。
ヘルシングの過去に関わる人物なのは間違いがなかった。


だが、今僕はその名前を問いただすことはできなかった。


するべきではあったのだろうけど、今この状態を落ち着かせることが先だった。



シュッ



「…ぁ…。」



どさり、とヘルシングの体が崩れ落ちた。


以前僕が作った催眠ガスをかけたからだ。


「ごめんね。」


僕は倒れた彼の髪にそっと触れた。


だが、本当に驚いた。

さっき見せた彼が記憶を失う前の彼の…本来の姿なのだろうか。

苦しそうに、誰かを殺したと言っていた…。
ヴラディスラウス…そう、名を呼んで。



#######

『ガブリエル…。』

誰かが俺の名前を呼ぶ。

誰だ?確かに聞いたことのある声だ。

ああ、俺はまた夢を見ているんだな。



『また会えたな、ガブリエル。』

声の主が姿を現した。

そこにいたのは…。

つい最近、俺が殺した相手だ。

だが…不思議と恐怖も警戒心も…俺は感じなかった。


何故?
目の前の相手は危険な男だったはずだ。


何故俺は…?


『傍にいてくれるんだな…これからもずっと…。』

彼はいとおしそうに俺を見た。

何を言っているんだ?

だが、俺の口は思っていることとは別の言葉を紡いだ。


『傍にいる…ずっと、ずっと一緒だ。』


俺は驚くべき事を言っているのに、驚かなかった。


何故?


すると、目の前の彼は…哀しげに笑った。


『お前は…いつまでも変わらないな…。』


そして俺の頬に優しく触れた。



『いつまでも優しい…嘘吐きなままだ…。』



ああ…そうだな…。



そうだったな…。


#######


「あ、やっと起きたね。今度は正気?」

「カール…。」

「正気みたいだね。大丈夫?」

「…俺はどうしたんだ?」

「さっき起き出したと思ったら、わけの分からないことを言ってパニック起こしたんだよ。
 覚えてないの?」

「…いや、さっぱりだ…。」

「…そっか。」

カールは少し残念なような、だけど安心したような複雑な気分になった。
親友の記憶が戻ることは望むべきことなのだけれど。

「…俺は何て言ったんだ?」

「……そうだね、もう少し落ち着いたら教えてやるよ。」


カールはそう言うともう少し休むよう、ヴァン・ヘルシングにすすめた。


ヘルシングは進められるままに、もう一度身体を横にした。



さっきの夢に誰かが出てきたような気がした。
そして何かをいったような気がする。

思い出せないが…。


どこか哀しさが胸に残っていた。




                                 end


無理矢理な話でした…。
記憶が少しずつ溶け出した感じですが。
結果としてカールがジャマなようにも見えるし…なんか変ですね。


長編とはあまり関係してるつもりはないです。
感情の赴くままに…って感じで。^^;)

雰囲気で読んでくださるといいかなと思います。(おい!)


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