メモ



「魁。ちょい、いいか?」

村中魁はその日、母の経営する高級クラブの手伝いに来ていた。
まだ高校生ではあったが、魁自身が年齢にそぐわない程の…まあよく言えば大人っぽい?
顔立ちをしていたし、経営者の息子だったので特に気にされている様子はなかった。


最初、自身にも部活はあったし、あまり手伝いには乗り気ではなかったが。
一人のアルバイトが入ってきてからは、彼に会うのが楽しみになっていた。

それが、先程自分に声をかけて来た少年だった。



「天国…。」

彼の名は猿野天国。
数ヶ月前より入ってきたアルバイトである。
しかし、素人と思えぬほど接客の術を心得ており、女性のみならず男性から人気を得ていた。

そんなわけで、アルバイトでなく社員にならないかと、経営者である魁の母からも再三誘いを受けていたが。

何故か分からないが、彼はその誘いをずっと拒み続けていた。




が、この日、その原因を魁は知ったのだ。



なんせ20歳(童顔だと言い張っていた)と言っていた彼は。

自分より年下の高校1年生だったのだから…。



「天国…。やはり昼間のあれはそなただったのか。」 

天国に連れられ、かなり広い更衣室の一隅で魁は単刀直入に話を始めた。

「ああ…。こんな早くバレるとは思ってなかったんだけどな。
 悪い。」

天国はすまなそうに苦笑する。


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この日、魁は弟の由太郎と共に自分の野球部の次の対戦相手を決める試合に赴いていた。
そこで魁は目を見張った。
年上の友人と思っていた天国が、十二支高校の4番サードとして出場していたからである。

由太郎は、クラブに来る習慣はなかったので、天国には気づかなかったが。


魁にはすぐに分かった。



あの輝きは二人と持つものではない。


夜に見せる静かな輝きとは一見全く別物だが、芯の真っ直ぐさやにじみ出る優しさは同じものだったから。


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「お袋さんには…内緒にしてて欲しいんだ。」


天国は躊躇しながら魁に言った。

どんな理由があれど、ウソをついていたのは事実だった。
だが…天国はこの仕事を辞める事はしたくなかった。
ここの給料が良いのも大きな原因だったが。

もう一つの理由は…。


「…元から母に話すつもりはあらぬよ。」

「え?」

魁の言葉に、天国は驚いて顔を上げる。


「そなたが辞めてしまっては、母が困る。」
魁は真面目な表情を崩さずに言う。


天国は魁の言葉に安堵する。

…しかし、小さな痛みが一瞬残る。




「それに…天国と会えなくなるのは私も嫌だ。」

それに続いたちいさな声。


けれど天国の耳にはしっかりと届く。




「…魁…。」


天国は少し驚いた、けれど嬉しそうな瞳で魁を見つめた。





「あまく…「天国く〜〜ん、ちょっと来て〜〜!!!」」


「あ、はい!!」

突然の声は、仕事の開始時間を知らせた。



「じゃ、魁。マジサンキュな!!」
天国は心配が解消したので目一杯の笑顔を魁に与えると、仕事場に向かっていった。



「……。」
そして、与えられた笑顔に別世界へとふっとばされた魁が残った。



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そして、数時間後、仕事の忙しさに流され気がつくと閉店時間を迎えていた。

魁は、天国の姿を探したが、既に帰宅したとのことだった。


「…はあ。」
もう一度ゆっくり話す時間が欲しかったと、魁は珍しくため息をはく。

すると、従業員の一人が魁に話しかけてくる。

「魁さん、これ猿野さんから預かってたんですけど。」

「何?」


それは小さなメモ。


そこには、こう書かれていた。



  次のホームランは魁からもらうからな!弟くんにも負けねーぞ!






「ぷっ…くく…。」

魁はメモに書かれた宣戦布告に、溢れる笑みを抑えられなかった。

「…私も負けぬぞ?」


その様子に、周りの人々はいぶかしげな視線を向けていたが、まあよしとしよう。

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「ね〜〜兄貴。何か楽しそうだけどなんか良いことあった?」


「…分かるか。」


「バレバレ。」


…しのぶれど 色にいでにけり わが恋は 物や思ふと 人のとふまで…   平 兼盛」


「………恋〜〜〜〜!!???」



パニックを起こす弟を尻目に。

次の試合を心待ちにする、黒撰高校エースピッチャーであった。



                                               end



やっちゃいました速攻!黒撰高校です!!
気に入っちゃったんですよ〜〜〜村中兄!!なぜ高級クラブ云々にしたかというと…
らくがきしてるときにビストロSM○Pを見て…なんとなく、
タキシード系の魁氏が書きたくなったというそれだけの理由です。
つーか攻キャラの使い方間違ってるような気になってきました。


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