身勝手
猿野が何も伝えずに引っ越してから数日。
僕はやっと彼に聞こうとした。
「司馬?
何だよ、珍しいな。」
会いに行ったのは猿野の親友。
…沢松のところだった。
彼と1対1で話すのは初めてだった。
こうやってしっかり対面するのも。
…今さらだけど猿野の方にばかり目が行ってたんだなと思う。
「あの…猿野の転校先…。」
僕は単刀直入に話した。
するとやはり予想していたのか、沢松は驚かずに。
そして短く言った。
「教えねーよ。」
「!」
「わりいけど、天国との約束でな。」
僕は愕然とした。
でも、どこかで予想していたのかもしれない。
「あのさ、司馬。
オレも結構怒ってるんだぜ?」
一瞬以上放心していた僕に沢松は話を続けた。
今度は少し鋭い視線で。
「あいつさー。
かなり勇気出してお前に告ってたんだよな。
良い返事もらえたってめっちゃ喜んでた。
…実際お前と付き合うまではな。」
ふう、とため息をついて
沢松は話を続ける。
「あいつああ見えて他人の考えとかにはすげー敏感でな。
お前があんま自分に良い感情持ってないことすぐに気づいてさ。」
「…!」
「だから言わなかったんだよ。
転校する事。
お前がそれ聞いてほっとするとこ見たくねえからって。」
「そんな…っ!違…っ」
「天国はそう思ってたんだよ。
お前が今違うっつってもな。
天国は そう思ってたんだ。」
「…あ…。」
そうだ。
僕は何も伝えなかった。
猿野に何も言わなかった。
辛い想いを持たせただけだった。
「出発の日さ、お前すっぽかしただろ。」
「っ!」
沢松は僕にとって痛いことを確実についてくる。
そうか。
君は優しすぎた猿野の代わりに僕を責めているんだ。
「あの日、お前が来てちゃんと別れを言えたらお前に転校先のこと教えるつもりだった。
けどまあ、こない方があいつにとっても未練残さなくてすんでよかったみてーだがな。」
「…あ…。」
そうだ。
このままだと猿野は僕を…。
「教えて…ほしい。」
僕は声を絞り出した。
「話の内容分かってなかったのか?
本気で宇宙人かよ、お前は。」
冷たい沢松の言葉。
でも、僕はどうしても。
「猿野に会いたいんだ。
会って…。」
「謝って?
これからも友達として仲良くして欲しい?
だったらムリな相談だな。」
「違う!!
好きだって、猿野のこと好きだって。
愛してるって伝えるんだ!!」
「……。」
「あんなことしたんだ。
猿野が僕を嫌いになってても仕方ないよ。
でも、伝えたいんだ。
やっと気づけたんだ。
猿野がずっと好きだったんだって…。」
「嫌われてたと思われたまんまじゃ自分がヤダってか。
それこそ勝手もいいとこだな。」
「…っ。」
…そうだね、勝手だよね。
でも…会いたいんだ。
「まあオレならゆるさねえな。」
「…。」
「…けど。
天国は喜ぶんじゃねえか?」
「え?」
沢松は小さいメモ用紙を渡してくれた。
「沢松くん…。」
「行ってこいよ。
んで自分の思うとおりにしてこれば?」
沢松は少し笑って。
あいつを頼むって言ってくれた。
END
え〜bU5の「嘘つき」の続編。
天国出てきてませんね(苦笑)
沢松君説得します編です。続きは今んとこ書く予定はないですね…。
読んでくださった人ありがとうです。^^)
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この話はbU5「嘘つき」の続編になります。
「嘘つき」を読んでからでないと分かりにくいです。すみません。