それはまるで 冴え冴えとした 月の光。 月光〜Moon Light Sonata〜 その日十二支高校3年、蛇神尊が特別棟に立ち寄ったのはほんの偶然だった。 たまたま副担任である美術教師に、数枚のカンバスを運ぶよう言い渡されて。 丁度部活は休みであったし、特に断る理由もなかったので、少々面倒ではあったがすぐに承諾した。 特別棟は教室のある棟から少し離れた所にある。 美術室のある棟は、音楽室が隣にあって、その下の階には家庭科室、被服室などがあった。 蛇神は選択授業で書道をとっていたし、男子であるので家庭科とも縁がなかったので、あまり足を踏み入れたことのない場所だった。 かといって丸2年はいる学校のなかで迷うはずもなく。 程なく美術室にたどり着き、指定の場所にカンバスを置くと、帰途につくことにした。 その時、ふと隣の音楽室からピアノの音が耳に入ってきた。 クラシックにさほど興味を持っては居ない蛇神にも分かる曲。 そして、その音色は類まれな美しさで。 かなりの技術を持っている者がその鍵盤を操っているのがわかる。 蛇神は音楽教師の誰かであろうと思ったが、美しい音色に少なからず興味を惹かれ、扉の隙間から音の主をふと覗いた。 しかし、それは。 「猿野…?!」 「え?」 声に出した事に気づいた時、ピアノの音は止まっていた。 蛇神は驚きを隠せなかった。 音の主は、自分以上にクラシックなどに縁のあるとは思えない人物。 野球部の後輩、猿野天国だった。 「あれ、蛇神さん。聞いてたんですか?」 「…いや、先程ここに来たばかり也。邪魔をしてすまなかった。」 「あ〜いえいえ、ちょっと暇つぶしに弾いてただけっすから。 邪魔とか、そんなの気にしないでくださいよ。」 そう言いながら天国はにっこりと微笑んだ。 その笑みはいつもの笑顔より、穏やかで。 とても綺麗だった。 蛇神は、あまりに意外な天国の一面に何故か動揺してしまう。 「と、ところで、貴殿はそのような特技を持っていたのだな。 我はあまり楽曲には詳しくないのだが、見事な腕前だと思われる也。」 「あ、あははは、そー言われると照れるっすね。 ちっせー頃からやってたんで、指だけは動くようになったってだけっすよ。」 「…いや、見事であった也。」 「…もー、蛇神さんってば、ほめすぎっすよ!! 明美、照れちゃう。」 天国は頬を赤らめながら恥ずかしそうな表情を見せる。 「……。」 「………。」 「よかったら何か、弾きましょうか?」 短い沈黙を、天国はそういって破った。 「そ、そうか…?では先程の…。」 蛇神も少し照れたような表情をして、言った。 収まらない胸の動悸を感じながら。 「月光の曲を…。」 「はい。」 天国は穏やかに、鮮やかに微笑んだ。 そして、静かに曲を始める。 情熱的な月の光。 愛する人を想い作られた曲。 その恋は許されざるもので。 そして、何よりも純粋だった。 その曲を紡ぎだす貴方に 今抱いているこの想いは罪だろうか? 冴え冴えと澄みわたる月の光のような 清らかな貴方に。 end . 全日本猿受愛連盟さまに投稿しました。(しかも今日)←おい! |