ノート

見たのは、珍しい光景。


その日、オレこと猿野天国はたまたま廊下であった一宮先輩に古語辞典を借りた。
何か辞書とか辞典が好きで、いつも持ち歩いてるらしく。
1年の誰かに借りるつもりだったが、話したらすぐに手渡してくれた。

何か意外。
ちょっと意地悪そうな眼鏡の、まあ結構顔はいいよなて感じの先輩。

思ったよりやさしいんだな。




その辞典はかなり使い込んであって、マジで好きなんだなって思った。



そんで、その日の昼休みに3年の一宮先輩の教室に行った。


確かフランケン先輩と同じクラスだったっけ。

どんな会話してるんだろ。ちょっと興味あるかも。
(というか会話になってるかどうかも疑問だが。)



そんなこんなで、教室に着くと。
いきなり目当ての人物の大声が響く。


「文!!てめえ人の話聞いてたのか?!」
「んッなに怒るなよ!!」
「が…がぁああ…。」


かなり驚いた。
っていうか見たこともないメンツっていうか、組み合わせっていうか。

だって一宮先輩に、シシカバ先輩、それにフランケン先輩がノートや教科書開いて、机会わせて。
やってるのはどうみても勉強だ。
いや、そりゃみんな高校生だし、勉強が本文っていうか。そうなんだけど。
すげー意外じゃねえ?


教師役は、思ったとおり一宮先輩らしい。
やっぱ文系得意なんだな、この人。
辞書好きだってくらいだし、頭良さそうだし。

「三象、お前は早くこのページまでやれ。」
「があ。」

どうやら三象先輩も教えてもらってるらしい。
まあフランケン先輩の方は結構真面目に言われたとおりのことをやっているようだ。


とりあえずオレは、用件を果たすために3人の先輩の所に向かった。


「あッれ、猿野じゃねーか。」
オレを最初に見つけたのはシシカバ先輩だった。

「何?どした、猿野。
 何か用か?」
シシカバ先輩の声に一宮先輩が振り向く。
ああ、気の毒に。かなり疲労困憊の様相である。

「あ。辞書返しに来ました。
 すんません、助かりましたよ。」
そういって一宮先輩に辞書を手渡す。
「そうか。部活でもよかったんだが、わざわざすまんな。」
一宮先輩はふっと口元をほころばせる。
あ、結構カンジいいじゃん。


そう思いながら、先輩がたの開いているノートを少し覗き込んでみた。


…絶句。



一宮先輩のノート…理路整然、美しい。
シシカバ先輩のノート…古語のノートのはずが、英語が多々含まれている。
フランケン先輩のノート…解読不可能。

で、生徒二人の開いているテキストは。

シシカバ先輩…やさしい漢字
フランケン先輩…よい子の書き取り


 

「あ…あの、一宮先輩。
 何教えてるんですか…?」


「…聞くな。」



…これって日本語と習字の授業?




しかし…。




やっぱ面倒見いいわ。この人。




そんなことを思った、一日。




猿野、一宮を語る。みたいな?
十二支高校3年生のふつーの学校生活を想像してみました。
一宮くん、黒くなりきれない、なんか良い人、みたいなカンジで。
…イミなし。