縫いぐるみ




「あれ、凪。何作ってるんだ?」
「きゃあっ!」


昼休み。
自分の教室で裁縫をしていた凪は、突然の声に驚く。
同じ1年女子マネージャーの清熊もみじだった。


「も…もみじちゃん!」
凪は焦って自分の作っていたものを隠そうとする。


「な、何か用ですか?」
「あ、ああ。ちょっと英語の教科書貸してほしいと思って…。
 ってか、何隠してるんだ?」
「な…なんでもないです!!」


だって恥ずかしいから。
作っていたのが、あの人の…。



「お〜い、子津!!いるか?!」

「!!!!!」



「あ、猿野くん。どうしたっすか?」




凪は更に硬直した。
先程の声は…野球部1年、猿野天国。



「よかった〜!!なあ、数学の問題集持ってねえ? 
 今日使うのマジで忘れててさ。」
「あ、いいっすよ。えっとどっちっすか?」
「数学Aの方。」
「分かったっす。」


子津が教科書を取りに行くと、天国は凪の方を向く。
「な〜ぎさ〜んvご機嫌いかがっすか〜〜?」
入り口からぶんぶんと手を振り回し、物凄く嬉しそうに挨拶する。
どうやらもみじがいるので、女同士のオハナシの邪魔はしないつもりのようだ。
(いつも明美になって乱入しているのはどうかと思うが)


「は…はい、ご機嫌いいですっ!!」
どぎまぎしながら凪らしくない答えを返す。
「おいおい?」
もみじは凪のあまりのパニックぶりに驚く。



「はい、これっすね。」
そんなこんなで子津が問題集を携えて天国のもとに戻ってきた。
「お、さ〜んきゅv このお礼はまたするぜ?じゃ、後でな。」


そう言って、踵を返す。
その瞬間、
「なぎさ〜ん、お名残惜しいですけどまた部活で!!
 もみじおね〜さまも、また後で。」
「さっさと行け!」

しっかり凪ともみじにも愛想ふりまいて天国は1−Fの教室を去っていった。



凪は激しい動悸を必死で押さえ込んでいた。

「んでさ…凪。英語の教科書…。」
もみじは凪の様子が心配だったが、何分時間が足りないのでそれは後にしようと思った。
そして、本来の用件のみ再度言い出したのだ。



「あ、ご、ごめんなさいっもみじちゃん!!英語の教科書でしたね!!」


「あれ、鳥居さん今日うちのクラス英語は…。」
「あ。」



「凪…早く言って?」



もみじの呟きの後にむなしく響いたのは…。



悲しい事に本鈴だったりする。






もみじの走り去った後。
凪がひっそりと手に持って眺めたのは。



ちょっとぼさついた黒髪の十二支のユニフォームの男の子の縫いぐるみ

イニシャルは A



                                         end.


少女漫画凪→猿。
普通の高校生活っぽくしてみましたけど・・・。どうだろ。



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