夢さえみれれば=君がいなくても


『にーちゃん、にーちゃん。』

『どーしたんだ?あまくに。』

『あれあれ。ほら。』

『ああ、これ、サルスベリっていうんだぞ。』

『さるすべり?おさるがすべるの?』

『そうそう、すべったおさるの尻に似てるからついたんだと。』

『そうなの?』



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「お〜い、ヨミ〜、ええかげん起きや〜〜。」

朝。雉子村黄泉は、呑気な級友の声で眼を覚ました。

「…朝カ…。」

「おう、もう7時やで。
 自分珍しぃ遅いからカントクが引っ張って来いって。」

「…sorry…。」

何か夢を見ていた。
まだ小さい頃、日本にいた頃の…。

ぼんやりと考えながら着替え、せかす鵙来とともに朝食へと降りていった。


「今日の飯は納豆つきやで?信じられへんわ!!」

となりで朝食のメニューについてごちゃごちゃと文句を言う鵙来は意識の外に追いやり。
黄泉は先ほどの夢を思っていた。


(…感傷か…オレらしくもない…。)

昔のことなんて忘れていたのに。
母の事も弟の事も…。

10年ぶりに会った弟はもう昔のように自分には笑いかけることもないのに。
そんなものもう今の自分には必要ないのに。


「なんやヨミ、えらい黄昏てるやないか?」

「…別ニ、ナンデモナイ…。」


ふ、と短く息を吐いたその時。
外から声が響いた。



「おーいっさるの〜〜!」
「探させるんじゃねえよ、めんどくせーな。」

「あー、悪い。」


窓の外にいたのは、夢に出てきた弟。

猿野…天国。


同じ埼玉選抜のメンバーである村中由太郎と御柳芭唐に呼ばれていたのだ。

弟とあの二人は、どうやらそれなりに仲がよいのか。
同じ特訓をやっているせいもあるが(黄泉曰くチャンバラ遊び)一緒にいることが多い。


「何だよ、お花めでてたのか?クッ、似合わねー。」

「やかましい!」

「さるのが見てた花ってこれか?百日紅(サルスベリ)じゃんか。」

「え…ああ。」

その言葉に、ふ、と黄泉が動きを止めた。



「へー。前言撤回。猿にゃぴったりだな、名前。」

「あー、言うと思った。うっせえぞミヤバカ。」

「って、やな略し方すんじゃねえ!」

からかう御柳を一蹴して、天国はまた百日紅に視線を移した。


「何か思い出してんのか?さるの。」

いつにない表情で花を見る瞳に、由太郎は聞いた。


「あー、ちょっとな。
 「サルスベリ」が転んだ猿の尻とかいーかげんな事教えてくれたやつがいてさ。」

「ははははは!おもしれーーなそいつ!」

「まーな、そいつにしちゃマトモなギャグだったよなあ。」

「言うことはそっちかよ、おい。」

怒りどころじゃねえのかとつっこむ御柳に、天国は少し笑った。


「いいんだよ、もう本当の事は知ってるしな。」


その笑顔は、黄泉の胸に棘となって貫いた。



「ヨミ?どないしたんや?」


「…ナンデモナイ…。」



朝食へと向かう黄泉の足が少し重くなっていたことに、鵙来は気づくことはなかった。




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夢を見ていた。


夢だけで今は君は笑う。


君がいなくても。


今年もあの花が咲くように…。


                                    end



OU TOPOSとタイプは同じです。
黄泉兄さんが思い出にすがる中、天国は思い出から離れていこうとする。
そんな感じで。

もっと兄弟でラブラブしてる話も書きたいはすなんですが…。(苦笑)


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