透明
一瞬、君が透き通ったように思った。
「…猿野…っ!」
焦ったような声と共に、屑桐は天国の腕を掴んだ。
「え?」
天国は振り向いて、驚いた目で屑桐を見た。
「どうしたんですか?屑桐さん。」
自分でも自分の行動に驚いたような表情の屑桐を見て、天国はおかしげに笑った。
「…いや、なんでもない。
階段から落ちないようにと思ってな。」
屑桐は、照れたように言い訳をした。
「……いつオレが階段から落ちたんすか?」
「よ…っ予防だ。予防。
転ばぬ先の杖と言うだろう?」
「……ひょっとして、ギャグですかそれ?」
いつも通りのたわいないやり取りが始まった。
それに、屑桐は少し安堵する。
自分が今何を考えていたのか。
それを忘れるように。
(こいつが消えるなどと…馬鹿なことを。)
この輝くばかりの存在感を持った男が。
そんなことあるはずないのに。
あの日の父のように。
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(お父さん…?)
(無涯、母さんや皆をよろしく頼んだぞ。
…すまんな。)
(おとう、さん?)
あの日、限りなく透明な笑顔で、消えていった。
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「無涯、どうしたの?目が赤いようだけど…。」
「いや…なんでもない。
母さん、時間はいいのか?」
「ええ、もう行くわ。
無涯、顔はしっかり洗っていきなさいよ。」
「…はい。」
昨夜、久しぶりに父の夢を見た。
不覚にも自分は、その夢を見て涙を零していた。
(親が恋しいと思う歳でもないのに…な。)
苦笑しながら屑桐は顔を洗う。
そして、いつも通りの厳しい主将の顔で、屑桐はいつも通り登校した。
けれど。
いつも通りではない出来事があったことを知った。
あの限りない透明な世界へ
彼が行ってしまった事を。
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それから 世界はずっと透明で
なにものも 染められない 世界の中で
今もまだ生きている。
end
何が言いたかったんでしょうかな死にネタのような文。
たんたんとした、重いっていうより何もなくなってしまったような悲しみみたいなものを書いて見たいと思いました。
まあ相変わらず思うだけですが…。
ファンブックにて屑桐さんはお父様を亡くしていることが発覚。
それも一応出してみました…。あんまり意味はないかも。
屑桐さんにはなんとなく「お父さん」という呼び方が意外と似合いそうな…。^^;)
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