強く儚い者たち
20
「ついに虎鉄先輩まで…。」
「2アウト…どーすんだ次で終わりだぞ。」
9回裏2アウト。
試合はついにあと一人の所まで来た。
そして最後の一人は。
(天国…。)
最後のバッター、猿野天国が大量のバットによる豪快なスイングと共にバッターボックスに向かった。
「なんだアイツあのバットの量は!!(@-@;)
「すごいングね…。」
「……。」
華武のメンバーの脅威の視線を集めながら、天国は歩み寄った。
「Hey猿野、何かわかったKa?」
「ちゃんと見つけましたよ
あの竜巻野郎の弱点をね。」
「オラ行くぞ〜!!」
あの日の決着をつけるために。
「9回裏3−4 6番サード 猿野くん」
「さあやろうぜ 卍での続きを。」
(それから…。)
屑桐は無言で投球モーションに入った。
(天国…オレは全力でお前の前に立つ。)
あの日々を
愛したものを
失ったものを 取り戻すために
天国はリズムを取り屑桐の球を迎えつつ。
(屑の字の球 リズムをとって打つつもりけ
そんな単純なもんじゃねえぞ)
桜花がそう思う中
「まっ!!」
強烈なスイングが桜花の至近距離を掠める。
「ぬおっ!」
バットの風圧により桜花は球を後逸させる。
「え〜〜桜花のおやっさんが後ろに球そらすなんて
めっずらし気〜。(;^−^A)」
(あやつ…。)
(……!!)
屑桐も天国のスイングに驚きの色を隠せなかった。
(そうか…ここまで努力したんだな。お前は…。)
屑桐は天国の成長に脅威と、嬉しさと、切なさを感じていた。
自分の知らない天国を。
バットを拾って戻ってきた天国は再び屑桐の前に立った。
ガギィィイン
「ファ・・・ファール!」
(当てたか。)
「あ…当てた〜!」
「猿野いけるぞ〜!!」
「ふんばれ〜〜!!」
「任しとけってんだコノヤロ〜!!」
天国は屑桐の球に必死で喰らいつく。
(無涯……っ!)
今の天国には明美への罪悪感も何もなかった。
あるのは目の前にいる屑桐の全力の五光だけ。
天国の中には確実に屑桐のみが存在していた。
「…早く次放れや…。」
「…。」
(屑の字…?)
桜花は相棒の様子がおかしいことの感づいた、
ほとんど顔に出してはいなかったが。
思いつめた色をしていた。
(このガキか…?)
「…ぬしゃあ見かけによらず なかなか骨があるの
が いささかプレイがぎこちねえ どういうこっちゃ。」
天国は桜花の声にふと我を取り戻す。
「…そりゃ どーも 動作がシロートくさいのはご愛嬌。
実際始めて間もないんでな。」
そして天国は言い放つ。
「オレは野球始めて まだ2ヶ月だ!!
なんか文句あっか!!」
(オレは野球をすることで あんたに 近づきたかったのかもしれない でも・・・。)
明美を裏切って あんたに近づくなんて 許せなかったんだ
「…速球打ちが好きか?」
「……おう 速い球を打つのは気分がいいな。」
ずっとずっと
速球の影には あんたがいたから。
「Hey報道部さん あいつ本当は弱点なんて見つけて来なかったんじゃねえNo」
「…いや、あいつ本当に見つけたみたいですよ。」
「台風の目をね。」
明美はあの日言ってたんだ。
『無涯の球ってさ、正面向いた時にね…。』