もしお前が知ったら
怒るか?
それとも
それとも…。
ホントもウソも虚実も事実も真実も。
「…はい、はい分かりました。」
その日、十二支高校野球部は練習試合のためある高校に出向いていた。
しかし、数日前その高校のグラウンドにかすかに地割れが発生したため。
急遽修復工事が行われる事となった。
そのことを十二支側が知らされたのは試合の当日で。
当の高校に来てから、場所を変更する旨を伝えられた。
「ま、中止にならなかっただけよしとするか。」
「急なことだったんですね。」
監督である羊谷と主将である牛尾とで話し合われ、結果指定された場所、その高校の姉妹校である近所の中学のグラウンドに向かう事となった。
「さ、みんな。すぐ先の中学だそうだよ。」
「は〜〜なんだ、休みになるかと思ったのに。ねえ兄ちゃん!」
「…。」
兎丸は話題を振った相手がなかなか返答しないので、相手に視線を向ける。
その視線の先。
猿野天国は珍しくやや表情を固めていた。
兎丸は不思議に思い、再度天国に話しかける。
「どしたの?兄ちゃん。」
「あ、いや…。」
天国は兎丸に声をかけられたのに気づき、曖昧に返答した。
その様子を見ていた牛尾は、何か思いついたように後ろから天国に声をかけた。
「そうか、この近所の中学って猿野くんの母校だったね。
王野中だったっけ?」
「…はい。」
天国は煌びやかな主将の笑顔にやや引きつった笑顔を返し、息をついた。
(よりにもよって野球部の奴らと王野行くことになるなんて…。)
(こいつも一緒の時に…。)
そんなぐるぐると考え込む天国の肩を、軽く叩く手。
「どーせ不祥事起こしまくって先公とかと顔合わしたらやべーとかそんなんだろ?」
言ったのは、犬飼。
「むかっ。…そんなんじゃねーよ!」
「それ以外になんかあんのか?」
「ちっがーうっつーの!!」
ぎゃいぎゃいと口げんか勃発。
元気がない天国への犬飼なりの励ましではあったようだが…。
「素直じゃないですねえ、全く。」
そんな二人の姿をいつも通り微笑ましくも思えずやれやれと眺める辰羅川。
そんなこんなで10分程歩くと王野中にたどり着いたのだった。
##############
日曜日のグラウンド。
人影は少ないとはいえ、流石に何人かは残っていた。
「お〜〜いたいた。今日の対戦相手がお待ちだぞ。」
十二支の野球部員たちは、監督の声と共にグラウンドに下りる
ところが。
いつもはムダなくらい堂々とグラウンドに行く天国が、今日は人目を避けるようにしていた。
母校に行くのが気恥ずかしいとはいえ、どうも度が過ぎているようだ。
やはりなにか禍根を残しているのでは、と犬飼をはじめ皆が気になっていた。
勿論何が来ようと守るつもりではいたが。
「…猿野、先輩?」
びっくぅ。
突如、女子中学生の声が聞こえた。
その声に天国は大きな反応を返す。
声のした方向にむくと。
いかにも真面目そうな、眼鏡をかけた艶やかな黒髪の美少女といってもいいほどの少女だった。
身長は兎丸とあまりかわらないくらいで。
「…葛城…。」
「やっぱり、猿野先輩ですね!?」
少女は天国の姿を確認すると、嬉しくてたまらない、といった表情になった。
そして、周りのメンバーが止める間もなく。
天国に抱きついたのだった。
「猿野先輩!!会いたかった…!!」
「ま…待てって、葛城…。」
葛城というらしい、その少女は天国を抱きしめたまま甘い視線で天国を見つめ、
既に天国しか目に入っていなかった。
が。
そんな状況を見て穏やかでいられるわけのない面々。
「てめえ、猿野を離せ。」
最初に動いたのは犬飼だった。
「い、犬飼…。」
葛城はいきなり出てきた長身の美少年に少し驚く。
「オレやそいつは野球しにきたんだよ。
…邪魔だ。」
そう言われると、葛城は納得したようで、天国から離れると犬飼や他のメンバーに改めて向き合った。
そして、深々と丁寧に頭を下げる。
「大変失礼しました。
私、王野中学の生徒会長を務めております、葛城圭子です。
今日は我が校のグラウンドを使用されるという事でひとことご挨拶に、と出向いたのですが…。
醜態をお見せしました。」
そう素直に謝った。
普通であるなら慇懃無礼と取られかねないところであるが。
不思議とそんな気はしなかった。
さっきの天国への態度と今の彼女と、随分違うが。
どちらの彼女も嫌な感じはしない。
すると、今度は牛尾が彼女の前に出てきた。
「いや、気にする事はありませんよ。
僕は十二支高校野球部主将の牛尾御門です。
今日はグラウンドの使用を許可していただいて嬉しいです。」
そして主将としての挨拶を交わす。
一通りの挨拶がすむと、騒動はなかったことのように野球部は用意にとりかかる。
しかし、犬飼はなかったことにはできなくて。
もやもやした気持ちでいる所を、先程の少女に呼び出された。
「…何か用か?」
「いえ、貴方が聞きたい事があるのでは、と思いまして。」
少し挑戦的な微笑みだった。
犬飼は、相手の思うとおりにするのも癪だったが。
知りたいと思う気持ちには勝てなかった。
「あんた…猿野とどういう関係だったんだ?」
「恋人…だった。」
ぴくりと犬飼の表情が固まる。
「と、言いたいところですけど…実際私の一方的な片想いでした。」
「…あんたが?」
あの、騒がしくてバカなことばかりしている、あの猿野天国に。
この聡明な美少女が片想いをしていたとは。
「私に生徒会の仕事を教えてくれた時に…
少し…付き合ってはいましたけど。
猿野先輩は私のこと好きにはなってくれなかったですから…。」
犬飼は混乱していた。
「あの…猿野が?
生徒会の仕事を教える?
あのバカ猿がか?」
「は?
バカって…猿野先輩が?」
犬飼のいいように今度は葛城が驚いた。
「十二支ってそんなレベル高かったですか?
猿野先輩…中学の時ずっと学年トップで生徒会長もされてましたよ?
だから王野中学の生徒って女子も男子も猿野先輩にすっごく憧れてましたけど…。」
「は?」
混乱する頭の中で、犬飼は一つだけ納得できた。
天国がここに来る事を躊躇っていた訳を。
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練習試合が滞りなく終了したあと。
犬飼は葛城より先に天国を捕まえていた。
そして、王野中の校舎裏。
「…なんだよ。」
「お前、何でバカなフリしてた?」
「……。」
やっぱりそう来たか。
天国はじわりと痛む胸を押さえて答えた。
「…だって…お前や…野球部の皆が認めてくれてんのは…バカ猿だろ…。」
「…っ。」
天国は消え入りそうな声で言葉をつづった。
「最初は、こーやってバカやってんのが面白くてさ。
中学んときはずっと「真面目な生徒会長」だったから…。
高校入って、ちょっと変わってもいいんじゃねーかって思って…。
でも野球部入って…お前らの言う「バカ」がみんなの中で定着してて、
それでないとみんなの中でオレじゃないみたいで…。
皆に受け入れてもらえねーのも…お前がいないのも…嫌だから…。」
犬飼は、そこまで聞くと静かに天国を抱きしめた。
「…っ?」
「…っとにバカだなテメーは。」
犬飼は少し怒ったように言った。
「……。」
「オレはお前が好きなんだよ。
バカなお前だろーと、実は頭よかろーと。
こーやって弱音はこーと。
どんなお前だって好きになっちまうんだよ。」
「え…。」
「…はずかしいから二度といわねえぞ。」
見上げると、犬飼は色黒の肌でもよくわかるほど真っ赤になっていた。
「…サンキュ。」
そして天国は、溢れそうな嬉しい気持ちをそのまま表情にした。
犬飼はその輝くような天国の笑顔を見て。
思った。
また一つ 知らないおまえを見れて
うれしい。
end
掃除機さまよりリクエストいただきました!
素敵なリクエストなのにまた答えられずすみませんでした!
犬猿だしハン猿で眼鏡猿なわりにはかなり弱いしモテモテというわりには女の子一人しか出てないし…。
ほとんど会話ばっかりで本当にすみませんでした!
しかも遅いし!
こんなヤツですがまたいらしてくださることを心よりお待ちしてます!
ではでは、今日はこの辺で。
これで代理リクエストコンプリートです!!掃除機様、他の皆様ほんとうにありがとうございました!
次の機会があったらまたよろしくお願いします!
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