嘘つき
「好きだ…司馬…。」
何言ってんの?
その時はただそう思った。
正直僕は猿野が好きじゃなかった。
だってすごく騒がしくて。
あいつのせいで好きな曲だって時々聞こえない。
けど何でかな?野球部にはあいつの事好きな奴が多い。
そりゃさ、奇跡とか起こすし。
凄いなって思うときもあるけど。
男だし…。結構無神経っていうか。
あんまり好きじゃない…。
コク。
けど僕は頷いてたんだ。
ちょっとからかってみるのもいいかな、なんて思って。
###
「でさ、聞いてる?」
「…。」
僕は適当に頷く。
もともとあんまり(っていうか全然…に近い?)喋らない方だったし。
まあ、聞いてるんだけど。
っていうか聞こえてくるし。
そう。聞こえてくる。
そうだよね、こんな大きな声だもん。
「やっぱ好きだな、司馬の事。」
にっこり笑って急にそんな事を言う。
何でだろ。
少し、ドキドキしてる?
###
「じゃあな、明日10時に。」
「…。」
明日の休みに、猿野と遊びに行く約束をした。
…もう夏も暑い盛りなのに、何か嫌だな。
何となく、そう思ってた。
次の日、起きるともう12時。
流石にやばいなって思った。
でも…もういくらなんでも猿野も帰ってるよね。
こんな暑い時に2時間も待ってるなんて。
短気な猿野のことだもの、あるわけないよね…。
だから、僕は約束の場所には行かなかった。
夕方近くになって、欲しいCDは今日発売だった事に気づく。
もう涼しくなってるし、少しくらい外に出てもいいだろう。
そう思って家を出た。
ふと気づくと、今日待ち合わせてたはずだった場所。
当然だけど、猿野はいなくって。
明日謝っとこう。
そう思った。
だけど。
###
次の日、猿野はなかなか姿を現さなかった。
もう朝練の始まる時間になる。
遅刻かな?
「ねー、今日は兄ちゃん遅いねえ、司馬くん?」
「…。」
僕は兎丸の言葉に頷く。
先輩もそろそろ来た。
「あれ?猿野くんはまだ来ていないのかい?」
「はい。まだ来ていませんが…。」
ホント遅いな。もう監督も来ちゃうよ。
「おーし、集まってるな、皆。」
ああ、監督が来た。
もう遅刻決定だね。
「はーい、監督。まだ兄ちゃんが…。」
「ああ、猿野な。その事で連絡がある。」
あれ?何だろう…。
風邪でもひいたのかな?
「猿野は昨日付けで転校した。」
え?
「転校ですって?」
「聞いてないっすよ!!」
「とりあえず…初耳だ。」
「そうだよ〜〜!!兄ちゃんがいきなり転校だなんて!!」
「どういうことですか?」
「説明を希望する也。」
「ああ、転校自体は2週間前に決まっていたんだがな。
猿野自身の強い希望でお前らには伏せておいたんだ。
オレは反対したが…どうにも聞かねーんで、黙ってた。
…悪かったな。」
「そんな…。」
「昨日の昼の12時半には出発したそうだ。」
!!
12時半。
あいつは、猿野は。
昨日僕に 最後に会うつもりだったの?
なのに、僕は…。
強い喪失感。
ああ、やっと気づいた。
やっと気づけた。
僕は君が大好きだったんだ。
###
帰ったらパソコンにメールが届いていた。
『司馬へ
今までムリさせて…ごめんな。
本当の事言うと、司馬が俺の事好きじゃないの知ってた。
なのにお前優しいから、オレに付き合ってくれたんだよな。
けど、マジでオレの最後の思い出に付き合ってくれてサンキュ。
司馬といれて、すげー嬉しかった。
それと、いなくなんの黙ってて悪かったな。
みんなにも謝っといてくれ。
じゃな。 猿野 』
優しいのは君だったよ。猿野。
とても残酷な優しさ。
そしてボクは
君の優しさ故の嘘と
サヨナラの言葉に
初めて涙を流すのだ。
end.
し…司馬くんだけ救われねえ…。
黒まではいかない、灰司馬でした…が、沈没。
天国が最後すっぽかされたことに触れなかったのは、予想してたからかも。
戻る