嘘つき





「好きだ…司馬…。」


何言ってんの?
その時はただそう思った。

正直僕は猿野が好きじゃなかった。
だってすごく騒がしくて。
あいつのせいで好きな曲だって時々聞こえない。

けど何でかな?野球部にはあいつの事好きな奴が多い。
そりゃさ、奇跡とか起こすし。
凄いなって思うときもあるけど。


男だし…。結構無神経っていうか。

あんまり好きじゃない…。




コク。



けど僕は頷いてたんだ。


ちょっとからかってみるのもいいかな、なんて思って。




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「でさ、聞いてる?」
「…。」
僕は適当に頷く。
もともとあんまり(っていうか全然…に近い?)喋らない方だったし。

まあ、聞いてるんだけど。
っていうか聞こえてくるし。


そう。聞こえてくる。


そうだよね、こんな大きな声だもん。



「やっぱ好きだな、司馬の事。」


にっこり笑って急にそんな事を言う。


何でだろ。



少し、ドキドキしてる?




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「じゃあな、明日10時に。」

「…。」

明日の休みに、猿野と遊びに行く約束をした。
…もう夏も暑い盛りなのに、何か嫌だな。


何となく、そう思ってた。



次の日、起きるともう12時。
流石にやばいなって思った。

でも…もういくらなんでも猿野も帰ってるよね。

こんな暑い時に2時間も待ってるなんて。


短気な猿野のことだもの、あるわけないよね…。



だから、僕は約束の場所には行かなかった。



夕方近くになって、欲しいCDは今日発売だった事に気づく。
もう涼しくなってるし、少しくらい外に出てもいいだろう。
そう思って家を出た。




ふと気づくと、今日待ち合わせてたはずだった場所。

当然だけど、猿野はいなくって。



明日謝っとこう。



そう思った。







だけど。




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次の日、猿野はなかなか姿を現さなかった。
もう朝練の始まる時間になる。
遅刻かな?



「ねー、今日は兄ちゃん遅いねえ、司馬くん?」
「…。」
僕は兎丸の言葉に頷く。



先輩もそろそろ来た。
「あれ?猿野くんはまだ来ていないのかい?」
「はい。まだ来ていませんが…。」

ホント遅いな。もう監督も来ちゃうよ。




「おーし、集まってるな、皆。」
ああ、監督が来た。
もう遅刻決定だね。



「はーい、監督。まだ兄ちゃんが…。」
「ああ、猿野な。その事で連絡がある。」



あれ?何だろう…。
風邪でもひいたのかな?



「猿野は昨日付けで転校した。」


え?


「転校ですって?」
「聞いてないっすよ!!」
「とりあえず…初耳だ。」
「そうだよ〜〜!!兄ちゃんがいきなり転校だなんて!!」

「どういうことですか?」
「説明を希望する也。」


「ああ、転校自体は2週間前に決まっていたんだがな。
 猿野自身の強い希望でお前らには伏せておいたんだ。
 オレは反対したが…どうにも聞かねーんで、黙ってた。
 …悪かったな。」


「そんな…。」



「昨日の昼の12時半には出発したそうだ。」



!!


12時半。


あいつは、猿野は。


昨日僕に 最後に会うつもりだったの?


なのに、僕は…。




強い喪失感。



ああ、やっと気づいた。


やっと気づけた。



僕は君が大好きだったんだ。





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帰ったらパソコンにメールが届いていた。



『司馬へ
 
 今までムリさせて…ごめんな。
 本当の事言うと、司馬が俺の事好きじゃないの知ってた。
 なのにお前優しいから、オレに付き合ってくれたんだよな。

 けど、マジでオレの最後の思い出に付き合ってくれてサンキュ。
 司馬といれて、すげー嬉しかった。

 それと、いなくなんの黙ってて悪かったな。
 

 みんなにも謝っといてくれ。


 じゃな。                     猿野  』







優しいのは君だったよ。猿野。



とても残酷な優しさ。





そしてボクは



君の優しさ故の嘘と


サヨナラの言葉に



初めて涙を流すのだ。



                                     end.


し…司馬くんだけ救われねえ…。
黒まではいかない、灰司馬でした…が、沈没。
天国が最後すっぽかされたことに触れなかったのは、予想してたからかも。


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