愛しい闇



「君が、好きなんだ。」

「え…?」

牛尾家の特訓を終え大会の開会式を明日に控えたこの日、
牛尾御門は、猿野天国に秘めていた想いを伝えた。

断られる事を前提としたことば。

彼には想う相手がいるのだ。
だから彼が自分の気持ちを受け入れるとは牛尾には到底思えなかった。

だが、彼の口から出てきた言葉は牛尾の予想とは違っていた。



「じゃあ、付き合いますか?」


驚いた牛尾を見つめた顔は、牛尾にとって初めて見る顔だった。
艶やかに笑ったどこか切ない瞳。

その深遠に、牛尾は気づくことはできなかった。


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「御門ぼっちゃま、こちらにおいででしたか。」

「あ…ああ、君か。…もう時間なのかい?」
後ろから聞こえた声に、牛尾は我に帰る。

声をかけたのはSPの一人だ。

彼は天国と獅子川の送迎時の護衛を担当していた。
彼が声をかけてきたということは、もう二人の帰宅時間だということだ。

それを知った牛尾は、残念な気持ちを隠せなかった。

たった今想いを受け止めてくれた相手を帰したくない。
それは当然の気持ちだった。


「キャプテン、じゃあ今日はこれで…。」
「あ…。」


天国は牛尾の横を抜けて、出口へと向かう。

そんな天国に、牛尾は引き止めるような声を抑えられなかった。


「あの…猿野くん…。」

天国はその声に振り向くと、笑って言った。


「じゃあキャプテン、また明日…ですね。」


振られた手に、牛尾は無意識のうちに振り返していた。




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「何のつもりだよ。いつもより5分以上早いじゃんか。」

車へ向かう長い長い廊下の途中。
誰の視線も、監視カメラからも死角になっている場所で冷たい声が吐き出された。

「…。」

相手は答えない。
先導して天国の前に立ったままでまだ背中を向けている。


「…聞こえてないならいいけどな。」

呆れたように再度吐き出す。
いつもこうだ。

何故氷のようなこの人を愛してしまったのだろうか。


彼はこぶしを握り締めて立ち止まった。


「?!」


そう思うと天国の身体は彼の腕に抱きしめられていた。


「何を…!」

「今度は。」


彼は声を震わせて言った。


「…今度は、御門様ですか…。」

「……覗き見か。いい趣味だな。」


ことばの一つ一つが突き刺さる。
だけど離すことができなくて。

抱きしめる腕に力を込めた。



「…大事な坊ちゃまをオレの毒牙にかけられねーか…。」

「!違…っ。」

「違わねーよ。」

ぐっと、細い体に似合わない力で天国はSPの腕を振り解いた。
そしてそのまま車の方へ向かう。


「猿野様…っ。」


「いんだよ。…間違ってねえからな…。」


背を向けたまま天国は言った。



「猿野様…?」



「オレは…親切にしてくれた先輩まで…喰いモノにしちまうんだろうな…。」


ダッ


「猿野様!お待ちください!!」


彼が背を向けて走り出す天国に追いついたのは。


車について…「いつもの彼」に戻ってからの事だった。





                                    To be Continued…



もしかして1年ぶりなリク裏連載の、やっと第2話です。
このSPかなり気に入ってますので、学校の先生よりかなり出張りますね。

話は何とか決まりましたが…だいぶ端折るかもですね…。

朽龍さま、本当に申し訳ありません!!


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