闇夜
「今宵は闇夜か…。」
月のない夜は少々味気ない。
バルコニーより夜空を眺めながら、伯爵は一人の時間を過ごしていた。
今は3人の花嫁たちは食事に出かけている。
仲良く自分を慕ってきてくれる花嫁たちは、伯爵にとって可愛いものであったが。
だが、この暖かさのない身体を吹き抜けていく孤独は、彼女たちだけでは埋められない。
それを知っているから、伯爵は時に独りになる事を好む。
埋められない孤独であるなら、いっそこの身の全てで受け止めて。
そうすれば、この孤独を埋めるあの存在を何よりも強く思い出すことが出来る。
「早く来い。」
いにしえより深い因縁を持つもの。
いにしえより運命を共にするもの。
ただ一人傍にいるもの。
「我が魂の対極者よ。」
果てのない死という名の生を共にするべきもの。
白き身と心を黒き衣で包み込みし姿。
月夜に光る強い瞳。
神の左を占めるもの。
「早く。私の元に。」
伯爵は闇夜に手をかざし、搾り出すように呟く。
「今の私には愛などない。
あるのは虚ろのみだ…。」
翳された手は闇夜をさぐるように。
「愛も情けも。
この心の熱もなにもかも。
お前が奪い去ってしまったのだから…。」
この涙すらも出ない瞳に早く姿を映して。
「戻るがよい。
我が腕の中に…。」
そうすればもう二度と離さない。
永遠をすぐ傍で共に過ごそう。
共に犯した罪をも忘れて。
ただ二人で。
永遠に。
「待っている。ガブリエル…。」
虚ろなる永遠を二人で。
end