『ちょっとだけの優越感』



 「手塚先輩。」
 
 部活も終わり、水をかぶって汗を流している手塚の耳に、可愛らしい声が入った。

 「今終わりですか?」
 
 そこには帰り支度を済ませてにっこりと笑う桜乃がいた。
 いつもの控えめな笑みは変わりなかったが、いつもより安心した笑顔。

 そんな笑顔を桜乃が見せてくれる事が嬉しくて、手塚は他の生徒には絶対に見せないような優しい笑みを浮かべる。
  

 「ああ。一緒に帰るか、桜乃。」
 「!うん、国光お兄ちゃん。」

 二人は幼馴染だった。
 二人は小学生のころからの付き合いで、桜乃にとって手塚は実の兄も同然であった。
 手塚も桜乃の事を妹のように思っていた。

 つい最近までは…。


 「ねえ、お兄ちゃん。」
 「ん?」
 他愛無い話をしながら帰る途中、ふと桜乃が声をかけてくる。
 
 「どうして、いつもは笑わないの?」
 「…どうしてって?」

 「だってお兄ちゃん私と一緒のときはよく笑うじゃない。でも学校にいる間って国光お兄ちゃんの笑顔全然見られないもん。どうしてかなって思って。」
 桜乃は気づいていなかった。
 手塚の笑顔が桜乃の前だからこそ惜しみなく現れている事を。
 「…笑わないわけではない。ただ部員の前であまり甘い顔を見せるわけにはいかなくてな。」
 手塚は苦笑しつつそう答える。


 「…お兄ちゃんって…。」
 「うん?」

 「何だか先生みたい。」


 がーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。

  

 10秒間停止。



 「桜乃…オレはそんなに老けてるか…?」
 今までも何度か間違えられていたが、(例:河村の父)彼女にそういわれるのは流石に辛かった。



 「あ、そうじゃなくてね、他の皆を引っ張らなきゃっていう責任感が凄く強いんだなって思って…。
 いつも頑張りすぎるくらいだから。」

 (ああ、そういう意味か…。)

 桜乃は外見の事を言っていたわけではなかった。
 いつもそうだった。

 彼女は物事の本質を自然に見抜いている…。
 そして桜乃の視点はいつも誰よりも優しかった。


 (そんなお前だから、オレは…。)

 「国光お兄ちゃん?怒ってる…?」
 ふと気づくと心配そうに見つめる桜乃の顔。

 「…いや、怒ってはいない。」
 「良かった。」

 二人はにっこりと優しい、安心した、柔らかい笑顔をお互いに向けた。


 (桜乃のこんな笑顔は、他の奴らには見せられないな。)
 苦笑しつつ手塚は小さな優越感にひたる。


 「桜乃。」
 「?なに?」
 
 お前もそう思ってくれたら、もっと嬉しいけど。


 誰かさんの言葉を使わせてもらうと、

 


 まだまだ…だな?




            end.

 


え〜「桜乃祭」様の小説掲示板にて勝手投稿させていただいたものです。
塚桜ではかなり大好きな幼馴染ネタ。
ありがちですね・・・。(^^;)
もっと精進しないとなあ。


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