前編
『あの子たち、また来てるね。大神。』
『おっ、またオレの勇姿を見に来たか〜。』
『随分色々とあの子たちに教えてるんだって?』
『まーな。あいつら飲み込みが早えっから教え甲斐あるぜ?』
『ふーん。熱心だねえ。』
『まーな。それに…。』
『それに…何?』
『あいつと同じくらいの年だし…な。』
『あいつって…ああ、アマクニくん?従兄弟の…随分とおとなしい感じの子だったね。』
『ああ。あいつ野球ギライでな。ワケアリだからしゃーねえけどよ〜。』
『ワケあり…?』
『あ、やべ…『『『おおかみさ〜〜〜ん!!!』』』
『おう、ちょっと待ってろ!
…ワリイなユキ、余計なこといっちまった。忘れてくれな!?』
『あ…大神!』
そう言って苦笑した親友と、
いつか会ったあの小さく儚い姿を。
ずっと忘れることが出来なかったんだ。
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「猿野…アマ…クニ…。」
大学を卒業してまもない自分に、突然大役が与えられた。
別に自信がないわけではない。
むしろ必ず優勝するつもりだった。
今年の埼玉県勢の個々人の実力は、他県と較べても群を抜いているといってもいい。
それを思うと、わくわくする気持ちを抑えられなかった。
そう思いながら、選抜された選手たちのデータを見ていると。
ふと、目にとまった顔と名。
5年前に若くして命を散らせた親友に酷似した容姿。親友の記憶とともに刻まれた名前。
疑うことなく、間違いないとはっきりと感じた。
「アマクニ…くん…。」
何の運命だろうか。
親友の大事に思っていた従兄弟の少年が、今こうして僕の指導を受けることに。
親友が出来なかった事が。
こうして。
それが嬉しい。
そして何よりも。
君に会いたかったから。
気持ちが高揚するのを感じていた。
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親友の大切な従兄弟くんは、思った以上に十二支の一年だった頃の彼に似ていた。
意地っ張りで自分の感情に正直で。
暴走する事も多く、大人になった僕からみれば、困った子どもだった。
彼もそうだった。
いつもいつもやりたいようにして、生きたいように生きた。
人からみればそれは暴走で。
だけど仲間を大事にすることは忘れない。
彼はそういう人間だった。
天国くんは、最初は他校生の…そう、彼を尊敬していた御柳くんと激しくいがみ合っていた。
だからそこは彼と違うのかな、なんて最初だけは思いもしたけど…。
そんなことはなかった。
北海道との試合を終える頃には、御柳くんとの確執も以前ほど強くはなくなっていた。
まだ頻繁に口喧嘩はしていたが、それが嫌いあう気持ちからではないのは一目瞭然だった。
不思議な子だ。
大神のように惹かれる。
あの頃の大神のように…。
「白雪監督〜!」
「えっ?…ああ、猿野くんか。なんだい?」
「?どしたんすか、ぼーっとして。」
君の事を考えていたんだ、なんて言ってもいいけど。
真面目にはとらえてくれないんだろうね。君は。
(…真面目に…?)
僕は自分の考えた事にひっかかりを感じた。
表には出しはしなかったけど…。
「…いや、なんでもないよ。
ところで、何の用かな?」
「あ!そうそう。
あの、御柳の奴見かけませんでしたか?」
彼の口から出てきたのは、先日まで喧嘩し続けてきた相手。
だけど、今は…。
「御柳くん?
僕は見てないけど…。」
「そっすかー…。
あのヤロー、約束破りやがって。」
今は…違う。
「約束してたんだ。随分仲良しになったようだね。」
「な…!仲良しって、そこまでじゃねえっすよ!」
そんな否定の仕方しないでほしいな。
なんだか…痛いから…。
「監督、すみませんけどあいつを見かけたらオレの携帯に連絡入れるように言っといてもらえますか?」
「あ?うん、かまわないよ。」
痛いよ。
「じゃあ失礼しました!」
待って。
「ちょっと待ってくれないか、猿野くん。」
しまった。声に出してしまった…。
「え?はい。なんですか?」
振り向いた猿野くんは…大神に似てて…でも、違う。
君はあのアマクニくんだ…。
「あのね…。」
「はい?」
「僕の事…覚えてないかな…?」
To be Continued…
結局続いてしまいました。
旅先にて打ち始めた雪猿小説(大神&猿野従兄弟設定)です。
大神さんと天国くんが従兄弟なのは大神さん登場時に本気で疑ってました(笑)
あと松井2号さんに「埼玉選抜選手データの天国の写真を見てドキドキする」というシーンをお借りしまして(ありがとうございます^^)今回の話が出てきました。
途中までの文は何名様かに見ていただいたんですが…結局終わってませんね。(^^;)
近日中に続編書きます…すみません。
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