遭遇 




 ドンッ
 
 
 「あぁ?!おいコラてめえ、痛ぇじゃねえか!」
 
 
 街中での出来事。
 不良学生、と言える類の男子高校生が大声を張り上げた。
 相手は赤紫色という個性的な髪の、どうやらこちらも男子高校生。
 不良系の男子はがっしりと身長の高い、要するにいいガタイをしていたが。
 相手の学生はどちらかというと細身だった。
 しかし、身長はかなり高く、声をかけて来た男子よりもやや高い程だった。
 
 だが不良系男子学生は細身であるほうを重視したようで、「相手は自分より弱い「だろう」」という判断のもと、相手に絡むことを決定したのだった。
 
 
 それが大きな間違いであったのだが。
 
 
 
 「…うるさいわね。」
 
 相手の男子学生はややドスのきいた低い声を発した。
 だが、不良系は自分より弱い「だろう」相手、つまりはこれから自分に恐れる「べきである」予定の相手が、反抗的な言葉を発したのに苛立つ。
 
 
 
 「んだと?てめぇふざけてんのかぁ?!」
 
 
 
 そして二度目の怒号と共に拳を繰り出した。
 
 
 
 その拳は細身の相手を難なく吹っ飛ばす…予定だった。
 
 が。
 
 
 
 パシッ
 
 
 
 
 
 「なっ!?」
 
 
 相手の男子学生は視線さえ向けずにその拳を掌で受けたのだ。
 
 
 
 そして、個性的なメイクを施した顔をこちらに向ける。
 
 「うるさいって言ってるでしょ?!」
 
 
 
 そして振りかぶるような体勢を取ったかと思うと。
 
 
 
 
 バキッ
 
 
 
 えらく小気味のいい音を立てて、不良系学生を吹っ飛ばした。
 
 
 
 「こっちは虫の居所が悪いのよ。野蛮人の相手なんかしたくもないわ。」
 
 
 きっぱりと女言葉で決めたあと。
 
 その学生は踵を返し歩き去っていった。
 
 
 
 セブンブリッジ学院野球部3年キャッチャー、中宮紅印。
 
 彼は現在、とっても機嫌が悪かった。
 
 
 
 
  #############
 
 
 
 「紅印〜〜〜なんかこないだっからびみょ〜に機嫌悪くない〜?」
 キャッチボールの最中。
 鳥居剣菱は相方の空気が本人いわく「びみょ〜に」張り詰めているのをいやと言うくらいに感じ、疑問を投げかける。
 
 
 「ええ、とっても悪いわ。」
 
 それに対し紅印は否定もせずに肯定した。(当然だ)
 
 
 「なにかあったわけ〜?」
 
 
 「あったわよ!!ありましたってんだわっ!!!」
 
 紅印の突然の激昂に、剣菱ほかセブンブリッジの部員たちは3分ほど硬直させられた。
 
 
  ###########
 
 
 数日前の放課後。
 
 中宮紅印は街中で、ある人物に出会った。
 
 
 紅印が最近出会い、是非もう一度会いたいと心から思っていた相手。
 
 
 十二支高校1年、猿野天国に。
 
 
 「猿野クンじゃない?」
 
 「え?あ、あんたセブンブリッジのおねーさま!」
 天国にとっても紅印は強烈な印象があった。
 
 なんせ本物のオカマさんである。
 自分もよく女装するが、それはギャグであって。本当の「そういう人」は天国にとっても初めてだった。
 
 
 「あら、猿野クン。アタシの名前覚えてないの?」
 「あ…え〜〜と、なか、みやさんでしたっけ?」
 「そうよ、中宮紅印。覚えててくれて嬉しいわ。猿野てんごく君?」
 
 「…あまくにですって…。」
 
 多分剣菱が「てんごく」だと言ったのだろう。本人に何度も訂正したが直そうとしてないことを思い浮かぶ。
 多分他の人間にまでわざと違うように教えているのだ。
 アノヒトはそういう人だ。
 
 天国はそう思い、げんなりとした気分で訂正した。
 
 
 
 「ところで、猿野クンは今一人?
  よかったら一緒に買い物行かない?」
 
 紅印にとっては思ってもいなかったチャンスである。
 好きな相手と二人になれるのだ。あわよくばあんなこととかそんなこととか。
 とまあ紅印は男らしく不健全なことも思い浮かべたりしていた。
 
 
 しかし。
 
 
 「いえ、今人待ってるんで。」
 
 「え?」
 
 
 
 「あ、今来ました。」
 
 
 
 そう言うと、天国は紅印の向こう側に視線をやった。
 
 
 「おー、待たせたな天国っ!」
 
 
 「おう、待ったぞ。」
 
 
 紅印も声の聞こえた方を向く。
 
 そこには、オールバックの、やや地味だが整った顔立ちの少年が天国と同じ制服姿で到着していた。
 
 
 「あら、猿野クンのお友達?」
 
 紅印は非常に自然に天国の名前を呼ぶ沢松にやや神経が高ぶるのを感じつつも、年長者としての落ち着きは崩さずに聞いた。
 
 
 すると沢松の方が本当にあっさりと答えた。
 「いえ、恋人っす。」
 
 
 
 
 
 
 
 「え。」
 
 
 
 
 
 「ばっ・・・か、何言って・・・!!」
 沢松の言葉に慌てふためき真っ赤になる天国。
 
 沢松は紅印の横を通り抜けると天国のその赤らんだ頬に優しく触れて言った。
 
 「何ってホントのことじゃん。」
 「う…そう、だけど…。」
 
 
 その姿はそりゃもうラブラブな恋人同士以外の何者でもなく。
 
 紅印は年長者の落ち着きって何状態で背中に嫉妬の焔を燃え滾らせた。
 
 
 
 そして、紅印が口を開こうとしたその時。
 
 
 「俺たちの邪魔なんてしませんよね?中宮先輩?」
 
 
 氷のような沢松び視線と声が、紅印の言葉を一瞬封じた。
 
 
 
 そしてその間に、二人は軽く挨拶し、紅印の目の前から去っていった。
 
 
 
 
 「あ…あんのガキ…!」
 
 
 
 そして、冒頭に至る。
 
 
 
 
 
 
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 「何が俺たちの邪魔よ!!いかにも猿野クンが自分のものだっていう感じで言うのよ!!??
  悔しいと思わない?!剣ちゃん!!
  猿野クンを独り占めしちゃって!!」
 
 「「「………………………」」」
 
 
 物凄い剣幕で語る紅印の話を最後まで聞いた剣菱と、いつの間にか居た霧咲雀と王桃食。
 
 「し…知らなかった…凪は親友だって言ってたのに…。」
 「天国…恋人…不許可…絶対…。」
 「天国の恋人になるのは朕ネ!!そんなの許せないヨ…!!」
 
 
 「そうよ!!絶対猿野クンは奪ってやるんだから!!!」
 
 
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 セブンブリッジ学院にて野球とは別の理由で団結力が生まれているころ。
 
 
 「沢松、先日町で不良学生がオカマに成敗されたという噂があるんですのよ。何か知ってませんこと?(疑)」
 
 「さあ?」
 
 報道部部室にて、含み笑いをもらす1年生がいたそうだ。
 
 
                                                             end
 
 
 
 
 
熊葵神威さまに押し付けました、相互リンク記念小説です!
またありがちな内容に…。っていうか前回お渡ししたのとオチがほとんど変わってないような。
熊葵さま、本当にすみません!!

冒頭の紅印ねーさんのプチ乱闘が私的に楽しかったです。(笑)


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