「お〜い、猿野〜〜!」
「鵙来さん?!」
全国総力戦が終わって数ヶ月。
夏が過ぎ、秋と冬を越して春が来ると。
オレも鵙来も卒業した。
本当なら夏の大会が終わればすぐにアメリカに戻るつもりだったのだが。
父をなんとか説得し、卒業までは日本に居ることになった。
そうする原因となったのは、チームメイトの鵙来の言葉だった。
『ヨミ、お前の弟君やって?あの埼玉のノリのいい奴。』
『弟…天国ノコトカ?』
『そや、天国のことや。』
『ナゼ天国ノコトヲ聞ク?』
『…もう前みたいにでき損ないや小バエやなんやゆわへんねんな。
認めたっちゅーわけかい。』
『…サァナ。』
『そらよかった。もしお前がアマクニんこと「出来損ない」てまたゆうたら
はったおそ思とったしな。』
『…何?』
『はっきりゆうわ。
オレはあのアマクニに惚れてる。めっちゃ好きやねん。』
『鵙来、貴様…。』
『弟に手ェ出すなとかふざけたことはぬかすなよ?
お前もカントクも今の今まで天国のことずっと知らんまんまやったんやからな。』
『…。』
『あいつもお前らのこと兄貴やとも親父やとも思いたないゆうてたしな。』
『…天国ガ…。』
『せやからこれからオレがやることにお前は絶対手出しも口出しもすんな。
天国にとってお前らは他人やねんからな。』
『…鵙来…天国ニ…伝エルノカ…?』
『せや。
愛しとるってゆうて来る。
お前が欲しいって抱きしめに行く。
せやからお前は邪魔するな。
兄貴としても、男としてもや。』
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オレは鵙来の言葉に一言も返せなかった。
小さな手を振り解いて、大きくなった手に振り返りもせずに。
憎しみに満ちた瞳を見返すこともしなくて。
それでも。
「お前もしつこいなー。
兄貴ヅラすんなっちゅうてんのに。」
「直接ジャマシナカッタダロウ。」
「おるだけで恋人同士には邪魔モンやで?」
「…ワカッテル…。」
鵙来はそれでもオレがここに、この日来ることを拒まなかった。
今夜の便で、オレは今度こそアメリカへ戻らなければならない。
せめて、その前に。
そう思っていると、あいつがやってきた。
「鵙来さん…!それに…。」
「天国…。」
「…アニキ…。」
オレはこのとき、本当に久しぶりに弟の瞳を見た。
そしてその瞳を見て、俺は驚いた。
憎しみが薄れていたから。
そして…。
「天国、会いたかったで!」
「あ、はい…!」
優しくていとおしい色が見えた。
ああ、そうか。
こいつが天国を変えたのか…。
だから天国にとってオレは。
兄貴に戻ったのだ。
戻ってもかまわなくなっていたのだ…。
オレは もう お前にとっては 兄貴でしかないのだ。
知らなかった思いは 知らない間に 失われていたことに
オレはやっと気づけたのだ。
end
リハビリですね。
兄貴でない他人でいる間(天国が黄泉を兄貴と実感しない間)に恋心を封じられたのは黄泉さんのほうだった…という感じで。
うわ、ワケ解りませんね…。
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