ありがと。

 少しだけ うれしかった。



「・・・この試合は1年軍の勝利と相成った・・・」

そう。負けたのだ。僕は。

2年間辛い思いをしながら磨きにみがいた剃刀カーブも打たれてしまった。
しかも数日前までカーブを打てなかった素人同然の1年生に。

(・・・・・・。)

鹿目は苦しい思いを隠しきれない。

(負けた・・・・。)



「おーし次はモミ総大将を打ち上げるか!」
「い…いや私は…!」
「ワッショイわっしょい!!!」

1年生軍の勝利に湧く声。
中心に居たのは最後の最後で逆転ランニングホーマーを放った猿野。
数日前までカーブを打てなかった…しかし今日自分のカーブを打ちはなった男。


「……。」

正直なところ、1年生たちの声は聞きたくなかった。
鹿目は痛む気持ちを胸にその場を去ろうとした・・・・。


「あっれ〜ほっぺ先輩どこ行くんですかぁ〜?」

さっきまでの大声が至近距離で響く。
鹿目は負けた自分をからかいに来たのかと憮然として振り向くと、

ぷに。

・・・ほっぺをつつかれた。

そこに居たのは女装版猿野。通称・明美。

「いや〜一度でいいからこの丸ほっぺつつきたかったの〜あ〜〜〜もう至福なの〜〜〜v
噛んでいいですかぁv」
ぷにぷにとほっぺをつつきながらとんでもない事を言う。

「い、いいわけないのだ!!」
こいつなら本気でやりかねない。
大慌てで否定していると、突然浮遊感に見舞われた。

「ささ、先輩もご一緒にv」
「へ。」

気がつくと猿野に襟を持ち上げられて・・・。


「カエル一丁〜〜〜〜!!!」
胴上げをしている連中の真上に放られた。

「わっ!!お前ら、やめっ!!」
さっきから他の1年生たちがやられたようにとんでもない高さの胴上げを繰り返された。


「わーーーーー!!死ぬのだーーーーっ!!!おろせーーーーっ!!!」



結局鹿目はその胴上げで気絶した。

「・・・ん?」

気がつくと、グラウンドの片隅に横になっていた。
「あー、気がつきました?ほっぺ先輩。」
そばにいたのは気絶の原因、猿野天国。

「猿野・・・。お前・・・。」
何か言ってやろうと思い、口を開くと天国が突然頭を下げる。
「すんません!気絶しちゃうとは思わなくて・・・。ちょっとオレ、やりすぎたっすよね。」
どうやら目の前の相手は本気で反省しているようだ。
そんな風に下手に出られると、鹿目とはいえ頭ごなしに怒鳴る事は出来なかった。
「いや・・・反省してるのならいいのだ。もうこれからしないでおけばいいのだ。」
「え。」
「ん?何なのだ?」
「いや、ほっぺ先輩がそんな先輩らしい事を言うなんて珍しいなー・・・と。」
前言撤回。

「さ〜る〜のぉ〜!!!」



とりあえず3発殴って許す事にした。


「ほ・・・ほっぺ先輩、見かけによらず力ありますね・・・。」
かなり効きましたよ、と言外にこぼす。
「自業自得なのだ。大体僕はピッチャーだぞ?それなりには力があって当然なのだ。」
「そ・・・ですよね。ホント、あの剃刀カーブすっげぇっすよね!!」
試合中散々苦しめられた球。
「・・・打った奴が何を言うのだ。」
「え?だってすげーじゃないっすか。あんなかっくんかっくん曲がるなんて。」
「けど、打たれたら意味がないのだ・・・。」

「先輩、野球って9人でやるんでしょ?」
「え?」

「何か子津の奴もそうだけど、先輩も一人で背負いこんじゃうんすね。
子津にも同じようなこと思ったんすけどね。ピッチャーって確かに責任重いけど、全部背負うのって大変じゃないすか。
せっかく9人もいるんすから、おれみてーに責任少しくらい他の奴に押し付けてもバチはあたんねーっしょ?」


「・・・猿野、お前も意外と色々考えるのだ。」
「ん?オレは考えてないっすよ。その場で思ったこと言ってるだけ。
見ての通り行き当たりばったりっな人生っすからね。」
あははっと悪びれず天国は笑った。

気持ちが 少し 軽くなったように思う。

 そうか こいつはごく自然に本質を突く。
 自然と周りを思いやれるのだ・・・。


 「猿野。」
 「ん?なんっすか?」

 「
・・・・・・ありが
と・
 「え?」

 「なんでもないのだ!!」


 今はこれしか言えないけど。

 一言だけ。

 




ありがと。


鹿目×猿野というより鹿目+猿野ですね。
 これは63発目から、「カエル1丁」から捏造しまくりました。
 ギャグだったけど、なんだかすごく天国の優しさを感じたシーンでした。
 鹿目君、これからも頑張ろうね。って感じで。

 最後無理やり終わらせた観が無きにしもありまくりですが(日本語は正しく使いましょう)
 今はこれが精一杯・・・。(笑)

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