平凡な一日の平凡でない一時
昼休みのひと時を、図書室で過ごそうと思ったのは気まぐれからだった。
いつもだったら獅子川あたりに引っ張り出されて。
グラウンドでキャッチボールでもしているか、教室で予習でもしているか。
そんなところだったのに。
人並み以上には読書も好きだが。
3年にもなって、意外にもここにはあまり来ていなかった事に気づく。
(そういえば…3年になって初めてか?)
市営の図書館なら時折勉強に利用したり、本を借りに行ったりもしていたが。
学校の図書室には本当に久しぶりに来た。
特に避けていたわけではないが。
学校に居る間は授業に部活に忙しく、なんとなく遠ざかっていた。
そんなことを思いながら。
十二支高3年、一宮一志は校内の図書館に足を運んだ。
テストが近いとか、そんなことも無い時期なので、人気は少なかった。
もともと図書館や、本の多い場所が好きな一宮は、なんとなくわくわくしていた。
(…ま、こーいうのもいいよな。)
勉強で頭を悩ませたり。
部活で勝った負けたの考えるのも。
決して嫌いではないけれど。
一宮はそんなことを思いながらぶらぶらと中を歩いた。
(久しぶりに何か小説でも見てみるか。)そう思い立つと。奥にある本棚の方に足を運んだ。
(?先客か…。)
目当ての本棚の傍に、人影があった。
少し茶色がかかった、黒髪。
俯いているが、シルバーフレームの眼鏡をかけているのがわかる。
読んでいるのは、ハードカバーの分厚い本で、落ち着いた姿で本棚に向かいページをめくっていた。
一見して書物となじみの深いイメージがあった。
(…常連のようだな。)
そう思った。
自分も探そうかと、本棚に並ぶ背表紙に目を向けた時。
「あれ、先輩じゃないすか。」
すぐ傍から声がかかった。
こんな傍に知り合いが居たかと不思議に思いながら一宮が目を向けると。
そこには先程の常連(?)。
しかし顔をよくよく見ると。
「猿野?!」
同じ野球部の後輩。猿野天国だった。
そして彼は一宮の今までの人生の中で最も騒がしいと言いきれる人物だった。
「でかいっすよ。声。」
天国はくすくすと無邪気に笑う。
それは一宮がよく知る天国の表情であり、知らない表情であった。
「す、すまん…。
猿野、お前なんでここに…。」
一宮は一通り動揺を抑えると、基本的な質問をした。
「なんでって、本を読みに。」
帰ってきたのは基本的な答えだった。
「そ、そうだよな。
すまん。意外だったもんで。」
一宮は少し顔を赤らめて謝罪した。
どうもまだ焦っているらしい。
それは、図書室で大きな声を上げた羞恥と。
天国の意外な端麗さへの照れによるものだった。
「いえいえ。
よく言われますから。先輩の反応今までで一番フツーですよ?
この間なんか清熊のヤツに「盗みに来たのか」とか言われちまったし。」
天国は苦笑する。
笑ってはいたが、少しは傷ついただろうに。
「あの1年のマネージャーか。
…言いすぎだろ。それは。」
「あはは、まあいつものオレ見てたらムリねーかもしんねーけど。」
天国の表情に一瞬切なげな色がかすめた。
「ムリすんなよ。」
一宮はぽん、と軽く天国の頭をなでる。
「……。」
「ん?」
気づくと、今度は天国が驚いた表情をしている。
「なんだ?どーかしたか?」
「い、いえ…オレ、いっちー先輩には嫌われてっかなーとか思って…あ。」
天国は言葉を濁す。
今度は一宮があっけにとられた。
一宮は天国に打ち取られたりレギュラー取られたりと、まあ確かにいろいろと腹立つ事もあったが。
嫌った覚えは一度も無かった。
同じチームにいる以上レギュラーで取った取られたのは当然の事だ。
だがそれはそれ。
個人的にはむしろ自分に無いバイタリティのある天国を見ているのは楽しかった。
多少の嫉妬は勿論あったが。
それは嫌悪にいたる原因に直結する事ではなかった。
少なくとも一宮自身そう考えていた。
「別にお前の事嫌いとか思ったことないぞ?」
「そ…そうっすか?」
天国は一宮のあっさりとした否定に少しほっとしたのか、表情を緩める。
「そりゃお前さ。何だかんだうるさかったりするしちょっとやり過ぎとか思うことあるけどな。」
「あ、はい。」
天国は緩めた表情を少し固める。
「何ていうか…。その、人に夢見せるのうまいからな。お前。」
「え?」
「…なに言ってんだオレ。…っんなクサいこと…わり。」
一宮はそこまで行って顔を真っ赤にした。
(…なに、照れてる…この人。)
天国は噴出す。
「か、かわいーっすよいっちー先輩!!」
「わ、笑うんじゃねーって。!!」
(注:小声です)
一宮は素直に思ってることを言って、素直に照れていた。
(素直すぎだって、この人。)
そう思いながら天国は目の前にいる先輩の印象を大幅に変えることにした。
「オレも好きですよ。先輩。」
くすくす笑いながら天国は言った。
「な…っ。
あんまそういうこと言うな。
(牛尾や鹿目に殺される。)」
そう言って一宮はさらに顔を赤らめた。
「いーじゃないすか。
牛尾キャプテンならかる〜く言いますよ。さっきみたいなことも。」
「オレは一般市民だ。あーいう常識知らずと一緒にするな。」
(…確かに。)
単なるきまぐれから始まった昼休みは、これからの二人の時間に大きく響いた様子である。
おまけ
「はっくしょん!!」
「牛尾?風邪か?」
「いや、そんなこと無いはずだけど…。
(猿野くんが噂しててくれたら嬉しいなあ。)」
実は願いが叶っている事を牛尾は知る由も無い。
まあ知っても嬉しくはないだろうが。
end
…先に言わせてください。
すーみーまーせーん!!まとまらなかった…。(T0T)
「夢を見せるのが上手い」っていうのをどうしても一宮くんに言わせたくなったんです!
それを強行したらこの有様でした。
匹さま、いつも素敵なリクエストに全くお答えできなくて本当に申し訳ありません!
自分的にはこれでも一猿です。猿一っぽいですけど・・・。
一宮くんヘタレすぎて受けくさくなってるし。
匹さま、リクエストほんとうにありがとうございました!
そして本当にこんなんですみませんでした!
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