裏切る事がないと言ってあげられたら
「ガブリエル…眠っているのか?」
「?いや、起きているが。
どうかしたのか?ヴラディス。」
「少し…よいか。」
「ああ、かまわない。入ってきてくれ。」
客間の戸を開け、城主の長男が入ってきた。
ガブリエルは部屋の蝋燭をつけると椅子にかけたヴラディスラウスの前に座った。
戸を開ける前から、声音で気付いていたが。
何か沈むようなことがあったようだ。
「…どうかしたのか。」
「……たいしたことじゃないんだが…お前の顔が見たくなってな。」
「そうか。」
「すまない。こんな夜更けに。」
「水臭いことは言わなくても良い。
私たちは友人だ…そうだろう?」
ガブリエルはにこりと笑った。
気遣う笑みに、ヴラディスラウスは少し息をつく。
そして意を決したように口をゆっくりと開いた。
「ガブリエル…お前はいつか、帰るんだろうな…。」
「え?」
苦笑した表情に見えたのは、縋るような瞳だった。
「……ヴラディス…。」
「詮無い事を言った。忘れてくれ、ガブリエル。」
年甲斐もないな、とヴラディスラウスは笑った。
そのようなことはない、とガブリエルは言おうと思ったが…口には出なかった。
その前に、ヴラディスラウスが立ち上がったからだ。
「?」
そのままヴラディスラウスはガブリエルの前に立つと。
ガブリエルの頭部をぐっと抱きかかえた。
「…ヴラディス…?」
「…少しで良い、このままでいてくれ…。」
ガブリエルはその時、ヴラディスラウスを抱きしめ返すことはできなかった。
行かない、とは言えない身を、思った。
########
「…お前は嘘をついたな。
だが…。」
「ご主人様?」
「ヴェローナ…独り言だ、気にするな。」
「…はい。」
決して裏切ることのない花嫁は、主人の胸に顔をうずめた。
そしてまた、心をかの存在に向ける。
(お前は何者をも裏切れない…それだけは…知っている…。)
あの時も、いつもいつでも、どこか辛く哀しい眼をしていた。
裏切れない縛られた身を知っていたから。
お前はそれでいい。
お前がそうあればこそ。
「…惹かれてやまない…。」
冷たい雪はこの消えることのない青い炎のように、ただ降りていた。
end
お題提供:夢の忘却 管理人:沙羅様
リハビリですね。地上波に押されました。
今回は長編の一端です。…ヴェローナさん設定は本決まりなので、そのうち!
仮面舞踏会での「奴も私も全てを欲しがる」のセリフは大好きです。
深読みしたくてしょうがない!
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