VOICE
『アリーラ…すまない…。』
ああ、またあの声が聞こえる…。
愛するご主人様の声ではない、別の人の声。
不思議ね、人だったときのことなど何も覚えていないのに。
ご主人様のものになってからのことしか知らないのに。
私はいつも嫉妬しているわ。
ご主人様ったら美しい女がヴァレリアス家に生まれるたびに
花嫁にって一度は考えるんですもの。
その度に私たちが泣いて嫌がってとめているけれど。
酷いわね、私も、ヴェローナも、マリーシュカもいるのに。
けれど私は知ってる。
ご主人様が真に求めているのは美しい女たちじゃない。
マリーシュカやヴェローナは勿論、私さえ知らない遠い昔からずっと。
それが私の聞こえる声の主だということを、どこかで私は知っている。
でも思い出せないの。
あなたは誰?
『アリーラ…すまない。』
悲しそうな声。
何故私に謝るの?
悲しそうな声と、そしてあたたかな腕。
身体が覚えているの。
それだけを。
そして、いつもご主人様の声で、忘れてしまう。
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「また会えたわね?」
緩やかなウェーブのかかった黒髪、鋭い瞳。
何年もご主人様に立ち向かう私たちの天敵。
そしていつもご主人様に捕らわれて、でもまた立ち向かってくる。
「まただと?」
「…!」
初めて私たちを見るような顔をした。
それが私のないはずの心を突いた。
「私を知らないの?」
「何の話だ?」
知らないの?
『アリーラ…。』
『…天使さま?』
「ガ…ブリ…エ……」
『アリーラ!!』
「…さま…。」
『アリーラを離せ!!』
【この女は我が花嫁にする】
【思い出す必要はない、アリーラ。】
「アリーラ!!何をぼやっとしているの?!
さあ早く一緒にこいつを殺しましょう!!」
…マリーシュカ。
「貴女らしくないわね、さあ。」
…ヴェローナ。
【忘れるんだ、アリーラ。】
…ご主人様…。
「…ええ、行きましょう。」
私は…アリーラ。
ヴラディスラウス・ドラクリアに仕える Dracurina…。
end
初の単発短編がアリーラ→ガブリエルってどういう精神なんでしょうね、私。
このアリーラさん設定はお友達榎雫セガキちゃんとの激楽しい会話で出てきました。
いえ、長編で使うんですけどね。もうちょこっとちゃんとして。
VHのゲームで花嫁さんSがヘルシングを知っていたので単発でやってみました。
伯爵一筋なアリーラさんがお好きな方はすみません。
やっぱり花嫁さんの中ではアリーラさんが一番好きな青沢でした。