野菜生活


 ゴトン。

 昼休み、食堂前の自動販売機。
 犬飼冥は長身を屈ませてたった今購入したコーヒー牛乳を取り出す。
 もみ上げの個性的な相棒から身体に悪いといつもうるさく言われているけど。

 これが一番落ち着くからしかたない。


 「げっコゲ犬?!」

 
 早速飲もうとストローをはずそうとした瞬間、最近になって耳慣れた声がした。
 
 「…バカ猿…。」


 猿野天国。
 同じ野球部のチームメイト。

 それと…あまり認めたくはないが、犬飼にとっては片想いの相手だったりする。
 
 いつもうるさいが、意外と他人に優しかったり。
 更に意外に頭も悪くなかったりする。
 つい最近の実力テストで明らかになったが、学年で10番と下らない。
 その時は周り中で大騒ぎしたものだったが。


 「何だよ、テメーまたコーヒー牛乳か?」
 「…うるせー。とりあえず…」

 「「これが一番うまい。」」
 天国と犬飼の声がハモる。

 「だろ?」
 にかっと面白げに笑う。
 
 「……///うっせ。」
 自分の台詞を一緒に言われただけだったが、何故か嬉しかったりする。
 犬飼はそんな自分自身に戸惑いを隠せなかった。

 
 「もーらいっv」
 「あ。」

 気づくと天国が犬飼の手にあったコーヒー牛乳のパックを取り上げていた。
 
 「猿、テメー何しやがる。」
 「あー?んなにうめーのかと思って。味見だよ味見。ちょっと位いいじゃねーか。
  減るもんじゃなし。」
 「とりあえずそれは確実に絶対減るだろうが!」

 ちゅっ。
 天国は犬飼を無視してコーヒー牛乳を吸い込む。
 
 「あま。」
 「当たり前だろ。」

 
 「ま、でもうめーな。」
 ちゅーっと天国は遠慮無しに飲む。

 「ちょっと待て!なくなるだろが!」
 「あ、なくなった。」


 天国が軽くコーヒー牛乳のパックを振ると、何の音もしない。
 
 「テメ・・・まだ飲んでなかったのに…。」
 「あー。わりぃわりぃ。」


 悪びれず謝罪するが、当然反省の色は見えない。
 「馬鹿猿・・・。」

 「ほいっ。」


 「あ?」

 犬飼は天国が投げ渡したものを咄嗟に受け取った。
 
 白地に緑色の野菜の絵のパッケージ。
 
 
 「代わりにそれやるよ。オレのお気にだぜ?」
 
 書かれている文字は、野菜生活。

 つまりは、野菜ジュース。
 (といっても、某テニス漫画の得体の知れない液体とは違って、飲みやすいが。)


 「ふざけんな、テメーが飲んだ奴返しやがれ。」
 「いーじゃん、そっちの方が身体にいいし。」

 犬飼の怒りにも全く動じずに、天国は笑って言った。

 「少しくらいたっつんの心配もなくなるんじゃねーの?」
  
 呆然。

 オメーもダチを心配させたかねーだろ?

 犬飼は天国の言外の言葉を感じた。
 

 「…るせえ。余計な…世話だ。」
 「だろーな。」

 いつもと違う静かな口調に犬飼が顔をあげると。
 そこに限りない優しい瞳があった。



 


 


 「おーい、天国!!」

 「おう、沢松ぅ!」

 犬飼は天国の鬼ダチと称する男の声にわれに返る。

 「そんじゃな、犬コロ!」
 軽やかに身を翻し、天国はその場を去っていった。


 「あ、ま・・・。」

 呼び止めようとしたが、既に天国は声の届かない場所まで去っていた。


 「…くそ。」
 完敗だ。

 あのバカには当分勝てそうにねー。
 不思議と悔しくはないけど、少し恥ずかしくなってきた。

 犬飼はごまかすように手元のジュースにストローを指し、一口飲む。



 「あま…。」

 
 コーヒー牛乳とは違う甘さ。


 

 多分これは、あいつの味。

 

 



 「犬飼くん、最近そのジュースよく飲まれてますね。」
 「…悪いか?」
 「いえ、大歓迎ですよ。随分身体にもよさそうですしね。」


 パッケージには、野菜の絵。



                                     end.




 はい、私の大好きな「野菜生活」をネタに取り入れました。
 美味しいんですよねー、これvさっぱり甘くて。
 最近はコーヒーを飲む事が多くなってきたんですけど、これはホントに大好きです。

 と、いうわけでちょっとほのぼの、密かにメガネ猿な犬猿でしたv

戻る