Heaven's Door
3
結局、昼休みは自己紹介で終わる事となった。
「仕方ない、続きは放課後だね冬紀。」
啓太は案内ができなかった事を残念に思いながら言った。
「そうだな、放課後の方が時間の余裕があるし。」
「あ、ごめん!今日の放課後はちょっと用があるんだ。
続きは明日にお願いしてもいい?」
「そうなの?…いいけど…。」
冬紀の言葉に、和希が少し考える。
「何?恋人に電話するとか?」
「ちが〜うっ!…兄貴に。
すっごい心配性でさ…僕が全寮制に入るの不安がってんだよ。」
冬紀の返答に和希は一応納得した。
(…考えすぎかな。)
「まあいいや。じゃあ明日だね。
部活もいくつか紹介するよ。
冬紀は、何か部活するかい?」
「ん〜。今の所は決めてないなあ。」
和希の言葉に、冬紀は苦笑しながら言った。
その質問で、あることを思い出した啓太は、和希に言った。
「ねえ、和希。
まだ冬紀には聞いてなかったけど…。」
啓太の言いたい事をすぐ理解したのか、和希は啓太に微笑み。
冬紀に聞いてみた。
「そういえば冬紀さ。
どの分野でここに呼ばれたの?」
そう。
ここベルリバティスクールでは何らかの分野で突出した才能を持つ生徒が
個人宛の手紙によって入学許可を知らされるという特殊なシステムがとられているのだ。
その中で、途中入学だった啓太はいろいろとワケありだったのだが…。
まあその辺りは説明を省くとして。
今度の途中入学の冬紀にも、なんらかのワケがあって遅れたのだろうが。
なにかの才能を有している可能性は大いにあった。
それを、啓太は聞きたかったのだが。
冬紀に言いよどんでしまったのは、自分が大した才能を持っていない(と本人は思っている)のに
特殊な理由で入学している事に、少なからず引け目があったからだろう。
だから和希に頼んだのだ。
和希は、そんな啓太の控えめなところが、また彼の魅力なんだなと思いつつ
冬紀に言ったのだった。
「ん?うん。
僕は語学…かな。他にもいろいろ好きなのがあるけど。」
「語学?
じゃ冬紀は英語とかフランス語とかの?」
「そうそう。
あと一応話せるのはドイツ語とイタリア語かな。
他にもいろいろかじってるけど一番得意なのは語学なんだ。」
少し誇らしげに笑って、普通の高校生からは考えられないような事を言う。
(やっぱりすごいんだなあ…。)
啓太は素直に感動の眼を見せる。
「そっか。じゃあ冬紀はそっちの部に入る?」
「そうだね〜。でも部活は別のものもいいかなとか思ってさ。
二人は?何部なんだ?」
「あ。オレは手芸部だよ。
編み物なら任せろよ?」
「オレはなにも…。
あんまりこれって才能はないし…。」
啓太は少し恥ずかしそうに言った。
「何言ってんだか。冬紀、啓太な。
学生会に会計部にと手伝いにひっぱりだこなんだぜ?」
和希は呆れたように言う。
「へえ!啓太ってやっぱり人気あるなあ。」
「オレができるのは雑用だけだってば…。」
大げさなほどに驚く冬紀に、啓太は弁解するように言った。
そんな啓太に、冬紀は優しく笑った。
「できる事がどうってのじゃなくてね。
僕が驚いてるのはさっきの我の強そうな会長と副会長が啓太を呼んでるってことだよ?
それだけ啓太が人として魅力的ってことでしょ?」
冬紀の言葉に、和希は驚かされる。
そして、それを見せずに。
二人に笑った。
「さ。早く教室に戻ろうか。」
#################
「…はい。無事入学しました。」
『そうか。では、任せましたよ?』
「了解いたしました。」
ピッ
「…これから…だな。」
#############
「啓太、和希。」
夕食のとき。学食で冬紀と待ち合わせていた二人は、時間通りに彼とおちあった。
「二人とも早いなあ。」
「迷わなかった?」
「うん、大丈夫。
案内板分かりやすかったしね。」
啓太の心配の言葉に、冬紀はにっこりと笑って返した。
「冬紀は自立してるなあ〜〜。啓太、見習えよ?」
「どういう意味だよ!!」
和希は啓太の頭をぐりぐりと撫で回す。
その時。
「伊藤。遠藤。」
「あ、篠宮さん!」
すらりと背筋を伸ばした姿勢で、寮長篠宮が声をかけてきた。
いつも通りの…えぷろん姿で。
女の子とは別の意味で妙に似合っているのが…なんというか。
「今日も岩井さんのところに?」
「ああ…少しはマシになってきたようだがな。
今日もアトリエにこもっている。そろそろ食事を運ばなければと思っていたところだ。」
仕方ない、といった顔で啓太に事情を説明した。
その時、冬紀のすがたが眼に入った。
「…君が今日転入してきた…?」
「あ、はい。」
和希が冬紀に小さく説明する。
「寮長の篠宮さんだよ。」
「サンキュ。」
「北野冬紀です。
よろしくお願いします。」
折り目正しく、といった挨拶に篠宮は微笑む。
「そうか。オレは学生寮の長を務めている篠宮だ。
誠意ある寮生活を営んで欲しい。」
一通りの挨拶をすますと、篠宮はキッチンに向かう。
「真面目そうな人だね…。」
「そう、じゃなくてホントに真面目だよ?篠宮さん。」
「そうだね…。」
何か思うところがあるのか。
少し懐かしそうな眼で篠宮を見て、冬紀は笑った。
###########
「あ〜美味しかった!」
「啓太、よく食ったな…。それと口元にごはんつぶ残ってる。
…冬紀も…見かけによらず食うな…。」
「いいだろ?食事は生活の基盤なんだから。」
「そうそう!」
ふたりでにっこり笑う。
その様子は昔からの友達のようで。
和希はすこし、嫉妬の気持ちを感じた。
(まあ、いいか…。)
と、二人から眼を離した。
その時。
「わ…っ!」
突然、啓太の身体が横にたおれた。
「だ、大丈夫?!啓太!!」
次の瞬間。
ガシャン!!
「……!!」
大きな鉢植えが、先程まで啓太のいた場所に落ちてきた。
「……!!」
あまりの出来事に、そこにいた全員が硬直していた。
もし、今啓太が倒れなかったのなら、啓太は…。
「すっげえ…伊藤、やっぱり運がいいんだな…!!」
誰かの声が響く。
その声に触発されたように、皆が啓太の周りに群がった。
「大丈夫かよ伊藤!!」
「よかったよな〜〜すっげえタイミング!」
「やっぱお前の運の良さは本物だな!!」
わらわらと皆が啓太のまわりに駆け寄っていく。
そんななか、騒ぎを聞きつけて篠宮が来た。
「どうした!何があったんだ!?」
「篠宮先輩!今、伊藤のところに上の鉢植えが落ちてきて…。」
「なんだと?!伊藤は無事なのか?!」
「は、はい…その前に、横に急に倒れて…。何とか無事です。」
啓太の言葉に、篠宮は大きく安堵の息を吐いた。
「そうか…無事でよかった。
誰だ?!鉢植えを落としたのは!!」
そう言って、上を見上げるが。
2回のテーブルには、誰もついていなかったというのが、皆の一致した証言で。
結局その日犯人は、見つけることはできなかった。
To be Continued…