遅かりし感情
2
「んじゃ俺、行くわ。」
「あ…ちょっと待てよ!」
制服についた砂を軽くはたいたあと、すぐに踵を返した奴を
オレはなぜか呼び止めていた。
いや、これは義務だろ。
「?何だよ。」
「何だじゃないだろ。
お前…誰にやられた?
殴られたか蹴られたかしたんじゃないのか?」
「あ〜…やっぱ聞くよな。」
「聞く前に逃げるつもりだったんだろ…。」
こいつは…。
さっきまで蹲ってた自覚はどうやら皆無のようだ。
…これも義務だ。仕方ないな。
「ほら、行くぞ。」
キョンの手を握って、言った。
「は?行くって…。」
「保健室に決まってんだろうが。
怪我してる女ほっとけるか。」
「…うー…悪い…。」
さすがにこっちが怒ってるのに気づいたのか、キョンは申し訳なさそうな顔をする。
少しうつむいたあと、急にオレの顔をまっすぐに見上げた。
「サンキュな、榊。」
「…いや、男の義務だろ。」
あんまりまっすぐ感謝の気持ちを笑顔に乗せられて。オレは…。
キョンにどぎまぎしていた。
…マジでだ。
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「で?誰にやられたんだ。
暴力振るわれて犯人をかばうなんざあんまり感心できないぞ?」
オレはさっきより、キョンを殴った犯人に怒りを感じ始めていた。
だって女の子一人殴るってのはさすがに人としてどうだよ。
うん、ごくふつうの義憤だ。これは。
「あー…つかマジで初顔合わせのコばっかだったからな。
名前とかクラスとか知らないし。
…まあ、よくあるネタで囲んできてたしな…。」
「…何人もいたのかよ。」
「あ。」
まずった、という顔をする。
どこまでお人よしなんだこいつは。
どうやら女子が数人でこいつをボコッたのは確かだな。
…となると、原因もおのずと分かってきた。
「…涼宮たちか…原因は。」
そう。
こいつが涼宮に引っ張られてできたSOS団。
ここには校内でもかなりの人気のある男子と、こいつで形成されてた。
涼宮も、さっきこいつを探しにきた「王子様」古泉も、
本の虫だが顔は綺麗な長門も、
2年のアイドル朝比奈さんもいた。
あいつらのファンとかいうやつらが犯人なのだろう。
「榊。」
そう思っていたら、隣から急に低くなったキョンの声が響いた。
「…あいつらが原因とか言うなよ。
あいつらに何の責任もねえんだからな。」
「…っ悪い。」
これは失言だった。
キョンにとっても大事な…友達、なんだろう。
SOS団のやつらは。
もしかして…いや、もしかしなくてもその中に好きなやつがいる…だろう、し。
…何でちょっと痛いんだ。俺の胸。
……あー、今の発言恥ずい。
ぐるぐるしていると、前方に急に人影が現れた。
「キョンくん…どちらに行ってたんですか?」
「あ…古泉…。」
そこにいたのは、さっきキョンを探しにきてた古泉。
あれからもずっと探していたんだろう。
…なんだ、目がえらく怖いな。
あ。
まだオレはキョンの手を握っていた。
やたら空気が冷えたのは気のせいじゃないだろう。
まあそうだよな。
さっきオレはキョンがどこにいるのか知らないって
こいつに答えたし(実際知らなかったしな)
それで今こうやって本人と手をつないでる状況だ。
オレが古泉に嘘ついてキョンと会ってたと思われても無理はない。
けど、不思議とキョンの手を離す気にはなれなかった。
その上でキョンは見つかってやばいって顔をしてる。
まあこいつ的には怪我がばれたらやばいんだろうけどな。
「悪い…探させたか?」
キョンはすぐにいつもどおりの調子で古泉に言った。
あー…若干空気読めてないな、こいつ。
こんないかにもなんか隠してますってな雰囲気で。
こいつが隠したいことは隠せてるけどな。
「…いいえ、かまいませんが?」
古泉の機嫌はかなり下降してるようだ。
誤解しまくってるな、これ。
…けど…。
悪いがオレは今キョンの手を離すことはできん。
こいつを保健室に連れて行くまでは。
保健室に行かなきゃいけない原因の一人にはまだ渡せん。
「榊、じゃあオレ行くから。」
だからオレはオレから離れようとするキョンの手をはなさなかった。
オレらしくもなく、苛立ってるのが分かる。
「あの…離してくれないか?」
「……。」
未だキョンの手を離さないオレを、
キョンは怪訝な顔で、古泉は射殺さんばかりの眼で見てくる。
けど、だめだ。
お前そんな身体で平気そうなツラを無理にするのか?
涼宮や古泉の前で。
今だって痛みはあるんだろうが…。
「まだ、いくな。」
あ、この言い方じゃキョンを古泉にとられたくないみたいだな。
…強ち間違いじゃない、が。
だがこのセリフに一番反応したのは古泉だ。
「彼女の手を…離してください。」
…悪いがきけないな。
「キョン。まだ用事があるんだろ?
古泉に先に行っててもらえ。」
「あ…。」
怪我のことを話されてはまずいと思ったのか。
キョンは無言でうなずく。
「…キョン…くん?」
その様子に古泉は愕然とした表情をした。
…キョンが絡むと表情変わるな、こいつ。
それに、どうやら本気でキョンが好きなのもよくわかった。
ならなおさら。
こんな状態を引き起こしたやつらにキョンは渡せない。
…なんだよ、オレ。
たった10分前はキョンのことクラスメートとしか思ってなかったのに。
「じゃあ、あとでな。古泉。」
あとで、という言葉に嫉妬しそうなほど。
オレはキョンのことが好きになってた。
そう、気づいていた。
To be Continued…
あっさり自覚。素直ですね榊くん。
とりあえず携帯サイト2話分を一話にしてますので、たまりしだいまたアップさせてもらいますね。
で、古泉くんといったん衝突。
榊くんが意外と強気な発言ばっかしてるので自分でも驚いてます。
気が向けば会長も出るかなー(笑
つかSOS団メンバーがまだ古泉しか出てないのになに言ってんだか。
…まあそこはそれ、楽しんでみますvv
次の目標はとりあえず…
ハルヒコを出そう。うん。
読んでくださった方、ありがとうございました!
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