強く儚い者たち
4
「天国ーっ!無涯ーっ!いい加減に起きなさい!!」
朝から響く元気な少女の声。
ここは猿野家長男、天国の部屋。
そこにいるのは部屋の主、天国と幼馴染の屑桐無涯だった。
二人は天国の部屋でそろって雑魚寝で朝を迎えたようだ。
「ん〜…。うるせーぞ、明美。」
「やかましい!大体今何時だと思ってんのよ?7時よ?!
天国はともかくとして、無涯っ!あんた朝練でしょっ?!」
「げっ!」
少女・明美の声で屑桐は完璧に眼を覚ます。
「天国、明美!オレは先に行くぞ!」
どうやら完全に遅刻モードらしい。
いつもの厳しい表情を崩し、大慌てで着替えると、部屋を去っていった。
「ったく、バイトと部活に明け暮れる苦学生がここに来るとこれだもんね。」
明美は呆れた顔を隠さずにため息と共に屑桐を見送っていった。
天国はもぞもぞと起き上がると着替えに取り掛かっていた。
「ふあぁ。」
「ほら天国。あんたもとっとと着替えなさい。健吾くんが迎えに来るわよ?」
「ふあい・・・。」
欠伸をしながら着替えを続ける天国に苦笑し、明美は部屋の外に出て行った。
猿野家の双子と屑桐家の長男の付き合いは、双子が小学4年生、屑桐が小学6年生のころから始まった。
屑桐家の大所帯の隣に猿野家が越してきたのである。
双子の姉明美は、おさげ髪の似合う活発な少女だった。
そして弟天国は少し大人しげではあったが、打ち解けるととても可愛らしい笑顔を見せる優し過ぎるほど優しい少年だった。
屑桐家は大家族であったため、無涯は少し毛色が違うが二人の弟と妹が増えたような感覚で接していた。
最初は普通に近所づきあいをしていたのだが、それだけで済ますには、双子は魅力的過ぎた。
明美はぐいぐいと引っ張っていく、しかし押しつけがましくなくさっぱりとした性格で、
天国は優しい笑顔と空気で屑桐の心に入り込んでいった。
その頃から屑桐は大勢の弟や妹の世話や、野球に忙しくあまり子供らしいとは言えない性格であった。
しかし、双子と接していくにつれ、責任感に捕らわれた心を少しずつ癒していった。
中学に入ってからも忙しい生活の変わりはなかったが、時折屑桐は猿野家に泊まり、天国や明美と時間をすごすようになまでなっていた。
しかし、普段は時間に厳しい屑桐だったが、何故か天国の部屋に泊まったときは寝汚くなる。
明美は最初その事を不思議に思っていたが、今では納得していた。
原因が誰にあるか、よく分かったから。
「遅いよ、屑桐。」
「うるせーぞ牛尾…。」
チームメイトで、ライバルである牛尾御門に注意されながら、屑桐は部活に専念していた。
前よりもずっと野球を楽しく感じている。
そんな自分を屑桐は自覚していた。
(楽しい…か。)
前ならそんなことは考えないようにしていた。
けれど今は。
(天国…。)
最近、幼馴染の片割れの事が頭から離れない。
いつでも天国の傍にいたい。
そう思っているけど…。
天国と明美は屑桐とは別の中学に入学していた。
それが屑桐には辛かった。
こうしている内に天国が危ない目にあってはいないか。
傷つけられてはいないか、そんなことが心配で。
まあ、明美がいるから安心ではあるが。
明美はいつでも天国を護っていた。
屑桐といる時は、屑桐と共に。
明美は屑桐が2つ年上であろうが全くお構い無しにえらそうな態度で接してきた。
勿論鼻につくような態度ではなく、その事を屑桐が嫌に思うことはなかったが。
そんな二人が昔から大好きなのは変わらないが、
最近屑桐は少なからず引っかかっている事がある。
自分が気になるのは、明美ではなく天国のほう。
女の明美でなく。
胸に刺さるような痛みと甘さを与えてくれるのは、男の天国のほうであること。
まだ確信にはなっていなかった。
このときまでは・・・。
To be Continued…
えー、連載の続きです。
相変わらず短くてすみません。とりあえず設定の紹介かな?
過去編のプロローグといったところでしょうか。
まだまだ先は長そうです…。
次は3人のうちに起こったある変化・・・みたいな感じ?
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