強く儚い者たち
5
「ん?」
部活も終わり、疲れた身体をひきずりながら帰る途中。
屑桐は前方によく知った姿を見つけた。
「天国!!」
「あ、無涯ーっ!」
天国であった。
屑桐は天国や明美以外には殆ど見せない穏やかな笑顔を浮かべ、天国の傍に行った。
「どした。寄り道か?」
ここは天国の通う中学からは少し離れた場所にある。
下校のみで通る事はまずあり得ない。
とすれば、必然的に天国が他の目的でここまで足を向けたことになる。
「うん。明美が今日は委員会で遅くなるから、無涯んとこ行けって。」
「明美が…って、あのなぁ…。」
完全に子守役扱いである。
明美が天国に対してとことん過保護なのは今に始まった事ではないが、
自分まで子守にされたことに、ついため息が漏れる。
明美でなければ、到底できないことだったが。
(まあいいが…。)
「天国、お前ももう13だろ?そろそろ明美離れしたらどうだ?」
「…そりゃ、考えてないわけじゃないけどさ。」
天国は少し憮然とした表情で答える。
「明美の方が離してくれないと思う。」
「……。」
傍から聞いていれば言い訳にしか聞こえない答えだが。
明美と天国に関して言えば全くそのとおりだった。
「あ、それからね。明美から伝言。」
「あ?」
「よく分かんないんだけど。『敵を殲滅しろ。できなきゃ死ね。』だって。」
「…………あっそ…。」
双子の密着具合に疲労感を募らせた屑桐に、本日の止めがさされたようであった。
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「ふー、終わった終わった。」
その頃、猿野明美は委員会を終え、帰宅しようとしていた。
「ねえ、猿野さん。」
「え?あ、豊川先輩。」
話しかけてきたのは豊川美亜(とよかわ みあ)。
明美の所属する(させられた)図書委員会の2年の先輩である。
明美にとってはあまり面識のない先輩だが、面倒見のよいという評判である。
とにもかくにも、明美には特に声をかけられる理由は思い当たらなかった。
それに、一刻も早く大事な弟の元に帰りたかったので、手短にすませてもらいたいなと思った・
だが、だからと言って彼女を邪険にする理由はない。
明美はごく普通に受け答えした。
「何か御用ですか?」
「うん、ちょっと個人的に…。時間いいかな?」
(あんまり良くないけど…。)
そう思いつつ、「駄目」とも言えまい。
(ま、仕方ないか。天国は無涯に頼んであるし。あいつも害虫駆除の役にくらいたってもらわないとね。
健吾君も頑張ってはくれてるけど、あの子いまいちニラミがきかないしな〜)
約2名に対してかなり失礼な事を考えながら、明美は先輩についていった。
「ごめんね、いきなり呼び出しちゃって。」
「構いませんよ。で、何でしょうか?」
中庭の隅の人気の少ない(というかほとんどない)場所に連れてこられた。
彼女の雰囲気から、物騒な用件でないことは分かるが、あまり人に聞かれたくない話であるようだ。
「あのね、猿野さん。あなたの弟さん…天国くんのことなんだけど。」
「え?…天国の?」
彼女の口から出てきたのは意外にも最愛の弟の名前。
天国は問題をおこすようなマネは絶対にしていまい。
これは予想ではなく確信だった。
では、なんなのだろうか。
すると、明美の想像していなかった言葉が聞こえた。
「天国君…付き合っている人とかいるの?」
「……え…………?」
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「おい、天国?」
帰りの電車の中、屑桐は隣に居る天国の反応がなくなったので、隣を見た。
予想通り、天国は電車にゆられ、寝てしまっていた。
たまたまその車両には二人だけなので、気が緩んでいたのもあっただろう。
「おいおい…。」
屑桐は苦笑しながらも天国の肩を抱いて、ゆっくりと引き寄せる。
天国は何の抵抗も見せずに屑桐の肩にもたれかかり、起きる気配を見せなかった。
「ったく。中一にもなって無防備な奴だな。」
穏やかな笑みを浮かべ、屑桐は天国の寝顔を眺める。
澄んだ大きな瞳は今は閉じられているが、睫の長い瞳は魅力を失わず。
見かけより柔らかな黒髪は自分の肩にしなやかに流れ。
丸みを帯びた唇は、少年らしく赤みを残していて…。
引き寄せられる。
「天国……。」
気づいたときには、屑桐は天国の唇に口付けていた。
心は理性を裏切って。
身体は常識を裏切って。
崩れていくものと、新たに生まれるものを同時に見つめながら。
To be Continued…
えー、行き当たりばったり連載。早くも5話目です。
つーか、早すぎるような。
早めに変化をつけたかったんですけどね〜…。
それにしても私、キス好きだな…。天国くんかなりしょっちゅう奪われてますね。唇。(苦笑)
さて、今回は屑桐と明美の天国への感情の変化です。
これからちゃんとシリアスにしていくんですけど、泥沼…まで行くかな?
ありがちな展開ですみません。創造力とか文章力とか皆無なんで。(汗)
ここまでお付き合いしてくださる奇特な方、本当にありがとうございます。
自分的にはかなり楽しんで書いてますけど。
続きも頑張りますね。
あとがきもろくに書けないS.青沢でした。
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