彼方へ
14
「兄は…貴方の事を…。」
自分の部屋に一人訪れたアンナ・ベルを迎えたガブリエルは、かけられた言葉に驚愕した。
彼女も、気づいたのか。
では、彼女は…。
「……。」
アンナ・ベルは顔色を変えたガブリエルを見て、
ガブリエルが自分の長兄の思いに気づいていることを察した。
アンナ・ベルはガブリエルが自分が気づくよりももっと前から悩んでいた事を知り。
悔やむような思いに捕らわれた。
「…本当に、本当に申し訳ありません、ガブリエル様…。
兄が、兄が貴方を悩ませるような想いを…。」
ヴラディスラウスの想いが、この優しい人をどれだけ悩ませているか。
想像に難くはなかった。
それを思い、アンナ・ベルは涙をこらえきれなかった。
そんなアンナ・ベルを見て。
ガブリエルはそっとアンナ・ベルの肩に手を置いた。
そして、言った。
「アナ…ヴラディスを…あなたの兄上を…軽蔑することだけはしないでください。」
ガブリエルの声に含まれた真摯な響きに、驚いたのはアンナ・ベルの方だった。
「ガブリエル様…何をおっしゃっているのですか。」
「彼は…寂しいひとです。
いえ……私がそうさせたのかもしれない。」
ガブリエルは自嘲するように笑う。
その笑みはあまりにも悲しげにアンナ・ベルの眼には映った。
この人は、どこまでも優しい。
兄の想いを…受け入れてはいなくても許している。
いや、むしろ許されたいと…そう思っているのだ。
「ガブリエル様…そんなことはありません!!」
「アナ……。」
「私は、貴方の傍に居る兄の顔…お兄様の顔を見て…
なんて穏やかに笑うようになったのかと驚きました。
だから…お兄様は、貴方にお会いできて本当に幸せなのだと思います!
…倫ならぬ想いを抱いたことが罪なのだとしても…。
でも、それは貴方のせいではありません!!」
「…ありがとう。」
ガブリエルは柔らかく微笑み、アンナ・ベルの頬に優しく触れる。
アンナ・ベルはその手の暖かさに不思議な光を浴びたような感覚を覚えた。
「それに…私はヴラディスラウスお兄様を軽蔑などいたしません。
ヴラディスラウスは…大切な兄です…。
だからこそ…兄には…。」
貴方への想いを諦めていただきたい…。
それは当然ともいえる意見だった。
勿論、ガブリエルもそのつもりだった。
ヴラディスラウスの想い…同性を愛する事が罪である、とは言わない。
それはかつて神の啓示を受けた一人の人間が判断した事。
だが、そうだからといってガブリエルが受け入れられるわけはない。
そんな事は分かっていた。
だが、アンナ・ベルの言葉に心のどこかが疼いていた。
その時。
「ガブリエル。」
二人が同時に声の方を振り向くと。
開け放された入り口の向こうに、ヴラディスラウスが立っていた。
「…来るんだ。」
静かに、冷たく。
声が響いた。
To be Continued…
短いけど一度切ります。
次、やっと伯爵とガブが絡みます…v
展開早いんですけど書くのが遅いなあ…。